新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5月8日から「5類」となった。対策が大きな節目を迎えた一方で、デイサービスなどの「稼働率が戻らない」という経営相談が増えている。【小濱道博】
◆ 進む通所介護の二極化
デイサービスはコロナ禍の影響を特に強く受けたサービスだ。最初の1年目はまさにどん底。数ヵ月の休業を余儀なくされたり、定員の半分でサービスを提供したりすることもあった。また、高齢者がサービス利用を長期にわたって自粛することも多くあった。
「5類」移行を迎えても、未だに利用者が戻らず稼働率が上がらない傾向が顕著に見られるのは、特にレスパイト中心の長時間のデイサービスだ。短時間のいわゆる“リハビリテーション型”のデイサービスでは、比較的早めに利用者が戻って稼働が安定している事業所も多いようだ。
各地域のケアマネジャーと話していても、レスパイト中心のデイサービスが苦戦している一方で、リハビリ型のデイサービスは不足しているという声を聞くことが多い。
その原因は何か。コロナ禍で“利用控え”の期間が長期化した結果、必ずしもデイサービスに通わなくても良い、と分かってしまったことが大きい。そのため、これまで粛々と通っていた利用者がなかなか事業所に戻ってこないのだ。
それに対して、ケアマネジャーの判断でリハビリ型のデイサービスなどをケアプランに位置付けるケースは増加している。自宅に引きこもる期間が長くなった結果、体力・筋力の低下やフレイル・サイクルなどのリスクが高まってしまい、健康状態の悪化が懸念される人が増えたためだ。
コロナ禍が収束する中で、明らかに利用者やケアマネジャーのニーズに変化が起こっている。今、デイサービスの二極化が進み明暗が分かれ始めている。
これは、「5類」となってもコロナ禍以前の状況に戻るわけではない、ということを示している。コロナ禍の3年弱の期間を経て、デイサービスは新たな時代に移行していると考えるべきだ。利用者のニーズに変化が生じ、コロナ禍以前のやり方が通じないケースが出始めている。
こうしたことを認識して、新たな時代に求められる介護サービスを提供する必要がある。経営者は時流を読み続けなければならない。
◆ 激化する生き残り競争
そもそもデイサービスは、介護サービスの中で最も事業所数が多いものの1つだ。厚生労働省の資料によると、昨年の事業所数(昨年4月審査分)は地域密着型を含めて4万3392件となっている。
4万3000事業所といってもピンと来ないかも知れない。2020年度末のコンビニエンスストアの店舗数を見ると、セブンイレブンとファミリーマートで3万7774店。デイサービスの多さはそれだけ際立っている。
もっとも、このところデイサービスの事業所数に大きな変化はない。2016年から昨年までずっと、地域密着型を含めて4万3000件台で推移してきている。高齢化が進み、要介護認定者数も年々増加していることなどを考えると、デイサービス市場はやはり飽和状態にあると言える。
そして、毎年の事業所数がほとんど変わらない中で、新規開業するデイサービスも相当に多いことは、新規開業とほぼ同数の廃業が存在することを意味する。利用者に求められないデイサービスは自然淘汰される、非常に厳しい生き残り競争が行われている。
◆ 新時代に対応した経営を
コロナ禍の影響から抜けることができない状況の中で、次の2024年度の制度改正で更に大きな変化をもたらす動きも見えてきた。それは、デイサービスと訪問介護を組み合わせた複合型サービスの新設であり、この夏には結論が出される自己負担2割の対象者の拡大である。
特に新たな複合型サービスは、デイサービスの市場に更なる変化をもたらす可能性がある。競争が激化して飽和状態にあるデイサービスは、今まで以上に介護サービス事業所としての存在意義を問われてくるだろう。
また、自己負担2割の対象拡大が現実となった場合には、その負担増から利用者による選別も進む。必要性が低いと判断された事業所は、今よりもっと使われなくなる。自然淘汰は更に進むだろう。レスパイト型の稼働率が戻りにくいという現状が、その行く末を示している。
こうした環境変化は、デイサービスに限った話ではない。今後、すべての介護サービスが直面していく問題である。新たな時代に対応した経営マネジメントが急務となっている。
二宮尊徳は「経済なき道徳は寝言である」という名言を残した。いくら立派なことを言っても、結果を伴わなければ寝言に過ぎないと言うことだ。
介護サービスにとって結果とは、利用者の獲得であり、稼働率のアップである。自己満足ではなく、確実に利用者を満足させるサービスを提供することが、今まで以上に求められる時代になる。