所属する介護支援専門員は38人。株式会社マロー・サウンズ・カンパニー(千葉県市川市)は、居宅介護支援のみを展開する事業者としては国内最大級の規模を誇る。
その事業所「ダイバーシティ」は東京都と千葉県に6ヵ所。ケアマネジャー不足の深刻化が進むなか、なぜここには人が集まってくるのだろうか。
会って話を聞くしかない。国の検討会などでも活躍している田中紘太代表を訪ねた。【Joint編集部】
◆「特別なことは何もない」
−− よろしくお願いします! 早速ですが、居宅介護支援を始めたきっかけを教えて下さい。
ありがとうございます。よろしくお願いします!
きっかけと言うか、それは単にやりたかったから、ですね。居宅介護支援のみ一本で取り組みたくて、ケアマネの資格をとってすぐ独立に挑戦しました。
−− 居宅介護支援の事業者として国内最大級となるまで成長されてこられましたが、日頃からどんな考え方を重視して事業を運営していますか?
38人程度で最大級を名乗るのも大変恐縮です…。改めて理念などを強調するのもなんだか恥ずかしいですが…笑。
それはケアマネの本来あるべき姿を追求することですね。自立支援・重度化防止の視点を決して軽んじることなく、利用者本位の支援に徹することを大切にしています。
うちは独立型の居宅ですから、「このサービスを使え」「この事業所を使え」といった種類の指示は出しません。利用者さんに事業所を紹介する時は、複数の事業所を提案して本人の自己決定を促すことを大前提として、コミュニケーションが取りやすくてスムーズに連携できるところ、自信を持って薦められるところを選ぶようみんなに伝えています。
個々のケアマネが信頼できる事業所とチームを組めば、本来あるべき仕事が更にしやすくなるでしょう。これが普段から重視していることですね。
−− 38人ものケアマネが在籍されているそうですが、どうして今の体制を作れたのでしょうか? 何か秘訣はありますか?
特別なことはありません。今言った理念で事業を運営していたら自然と集まってきてくれた、というのが実情です。
やっぱりみんな、会社の利益のためとか併設事業所の存続のためとかではなく、純粋に専門職として活躍したいんですよね。そういう環境があれば、多くのケアマネはいきいきと前向きに働きます。それで評判が広がり、いわゆる“囲い込み”などに疑問を感じていた人が共感して移ってきてくれました。
◆「新人には付きっきりでサポート」
−− あるべき姿の追求こそがポイント、ということですか?
そう思っています。あとは育成の体制でしょうか。これはスケールメリットの1つですが、うちは1人のケアマネを複数人で育てますし主任も大勢います。
ですから条件さえ満たしていれば、未経験の方の採用も躊躇しません。最初は未熟でも、周囲の手厚いサポートを受けながら経験を積んでいき、やがて主任へ、管理者へ。そうした個人のキャリアアップを後押しする環境ができたことも、人材確保の面でプラスに働いていると思います。
−− 小規模な事業所では育成も苦労するという話をよく聞きます。
後輩をしっかり育てる、ということも我々の本来あるべき仕事の1つではないでしょうか。
ケアマネは給付管理も担う制度の要ですから、居宅介護支援はいつも適正に運営されなければいけません。法令に則って不備のない書類を作ること、ケアマネジメントの質を高めることなどが重要な責務で、そうした責務を全うする人材を揃えなければいけません。
例えば弊社では、ケアマネ同士がお互いの書類に不備がないか確かめ合って精度を底上げする相互チェックを、月に1回必ず行っています。新人には先輩が付きっきりでサポートしますし、訪問時は何度も繰り返し同行していきます。もちろん個人差はありますが、そうしてサポートしても一人前になるまでに1年はかかるでしょう。
貴重な人材をしっかりと育成していく機能を持つことは、事業所側にこれから大きく期待されていくことです。そうした体制が未だ普遍的に整備されていないことは、業界の課題の1つと言えるのではないでしょうか。
−− 大勢のケアマネに理念を浸透させるために、どんなことを意識していますか?
そうですね。色々ありますが、1つは情報共有を徹底することでしょうか。
弊社ではクラウドのコミュニケーションツール、チャットツールを使ってみんなで頻繁にやり取りをしています。相互の業務連絡はもちろん、新たな制度改正があったり関連するニュースがあったりする場合は、会社側から積極的に発信しています。ここでみんなで勉強しながら、認識を擦り合わせながら仕事を進めていく、というイメージですね。
社内研修は少なくとも月1回。コロナ禍以降はZoomを活用し、少しでも成長できるようみんなで様々なことを勉強しています。
◆「ケアマネはクリエイティブな仕事」
−− 職員さんは学ぶことが多くて大変そうですね。
もちろん負担の軽減、働きやすい環境の整備は必須です。これはもっと早く言うべきだったかもしれませんね。
弊社は土日祝日休み、残業なしで在宅勤務も認めています。パソコンとスマホを1人1台ずつ支給し、どこでも仕事ができるようにしています。小さいお子さんがいたり、親御さんの介護をしていたりする人も少なくないので、こうした配慮はやはり欠かせません。
−− テレワークには何かルールを設けていますか? マネジメントはうまくいっていますか?
もちろん条件は設けています。もともとしっかりした仕事ができていない人にテレワークをさせても、絶対に良い成果は出ません。
少なくとも、一定の担当ケースを持ったうえで書類を不備なく作成できることが前提。そのうえで管理者が総合的に評価し、「この人なら大丈夫」と判断した場合に認めています。まだそのレベルに達していない人には、理由をしっかり説明しつつ基本的に出社するよう求めています。
居宅介護支援とテレワークは相性が良いと思いますが、事業所がしっかりと責任を持って管理できる範囲とすることが重要です。会社として確実に法令を守り、ケアの質を担保していくために、十分な前提条件を設けずに拡げることは好ましくないでしょう。少なくとも私には怖くてできません。
−− さきほど土日祝日休み、残業なしと説明されましたが、忙しい中そうした条件を維持するのは難しくないですか?
まったく問題ありません。居宅介護支援は訪問介護や通所介護と違い、時間単位・1日単位ではなく1ヵ月単位で働きますよね。工夫すればやり方はいくらでもありますし、実際に弊社では残業なしが実現できています。
やっぱり時間の使い方が重要ですので、そこはきめ細かくアドバイスしています。
例えば今年2月は営業日が19日しかなく、業務時間は152時間でした。一方で3月は営業日が22日あり、業務時間は176時間。同じ1ヵ月でも24時間、実に3日分の違いがあるんです。
こうしたことを考慮しないで仕事をすると、「なんだか今月は忙しい」という極めて当たり前の状況に陥ります。結果、連絡調整の抜け漏れが起きたりケア対応が雑になったりする事態を招きかねません。
住所の近い人をまとめて効率的に訪問する、といった基本的なことだけにとどまらず、もっと時間と正面から向き合うことが大切です。ケアマネは仕事の進め方、時間の管理などの面でも非常にクリエイティブになれる仕事です。人手不足がより深刻になる今後は、高齢者の支援に加えてそうしたワークスタイルの創造性を磨いていくことも、更に必要となるのではないでしょうか。
※ インタビュー記事後編へ続く。