次の介護報酬改定、引き下げも十分あり得る 物価高騰だから報酬増、と楽観できない理由=斉藤正行
次の介護報酬改定(2024年度)までいよいよ1年を切りました。これから具体的な議論が始まることになりますが、今年の年末ごろに決定される予定の全体の改定率について、どんな要素が影響を及ぼすか論考していきます。【斉藤正行】
私は日頃より、全国をまわりながら介護関係者と頻繁に意見交換を行っています。その中では、次のようなご質問を多くの方から頂きます。
「コロナ禍や物価高騰で厳しい現場の実情を踏まえると、次の改定でのマイナス改定はまさかないでしょう?」
しかしながら、政府やその関係者と意見交換を行っている私の感触としては、少なくとも現時点において、政府がマイナス改定を行わないという空気を感じ取ることはできません。むしろ、マイナス改定を含む厳しい改定率の調整がこれから行われる、と予測しています。
そもそも、前回の2021年度改定はプラス0.7%の改定率となりましたが、改定率が決定された2020年の年末はコロナ禍の最も深刻な時期でした。世界中がパンデミックに襲われ、世の中が今後どうなるのか不安に駆られていた頃であり、そのような状況ですら、1%に満たない僅かなプラス改定しか実現することができなかったわけです。
それに対して、次の改定は大きく状況が異なるでしょう。今年5月8日をもって、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが「5類」に変更され、季節性インフルエンザなどと同等の扱いになります。コロナ禍の収束が加速していく中で改定率の決定がいかに厳しいものとなるかは、想像に難くないと思います。
加えて、改定率をめぐる議論が厳しさを増す最大の要因は、政府が推進している「少子化対策」と「安全保障」の予算拡大です。岸田政権は増税を検討せずに、「あらゆる策」を講じて予算確保に努めるとの見解を示しています。
介護業界の皆さんも関連するニュースを日々確認していることと思いますが、この予算確保に向けた動きは間違いなく次の改定に大きな影響を与えることになります。
現時点では予算確保の目途が立っていない状況であり、「あらゆる策」の中の1つに、他の予算の削減が含まれることは明らかです。国の支出の最も多くを占める社会保障費の削減も、これから検討される可能性が高まっています。つまりは、介護報酬のマイナス改定も俎上に載ることとなります。
そして、もう1つ注視すべきは衆議院の解散総選挙の時期でしょう。
各種の世論調査では、現政権の支持率がじわじわと高まってきています。統一地方選挙などの結果が与党にとってまずまずだったこともあり、国会では俄かに“解散風”が吹きはじめていると噂されています。
もし秋までに選挙が行われ、そこで与党が勝利すれば状況は大きく変わるでしょう。選挙公約との兼ね合いはあるものの、当面の間は大きな国政選挙が行われる可能性が低くなるため、政府が大胆な歳出削減・マイナス改定を断行する可能性は高まります。解散総選挙の時期はまだ分かりませんが、今後の政局からもやはり目が離せません。
そして最後に、忘れずに注目すべきは来月に実施される今年度の「介護事業経営実態調査」の結果です。10月ごろの公表が予定されており、各サービスの利益率が物価高騰の影響などを受けてどの程度増減しているか、が注目されます。ここで利益率の著しい悪化が確認されれば、プラス改定の気運も高まることでしょう。
これから秋に向けて、国の審議会で本格的な議論が進められることになります。関係団体や与野党との調整、大臣折衝なども経て、最終的には年末に改定率が決定されます。診療報酬との同時改定にもなりますので、医療分野の議論の動向にも影響を受けることになるでしょう。
これらの情勢を総合的に踏まえたうえでの最終判断となるため、現時点でプラス改定・マイナス改定と言い切ることはできません。私が強調したいのは、決して楽観視できる状況にないことを業界関係者は肝に銘じておかなければいけない、ということです。
もっとも、介護事業者を取り巻く経営環境が厳しいことは紛れもない事実です。業界関係者が危機感を強めて、プラス改定の実現に向けた働きかけをしっかりと積極的に行っていくことが、何よりも大切ではないでしょうか。