【高野龍昭】ポスト2025年、医療・介護の姿は? 政府が「総合確保方針」を改正 事業者は基金を活用しよう
◆「総合確保方針」とは何か
去る3月17日、厚生労働省に設置されている「医療介護総合確保促進会議」が、新たな「総合確保方針(地域における医療及び介護を総合的に確保するための基本的な方針)」を示しました。
これは2014年9月に初めて定められたものです。その後2016年12月、2021年11月に改正され、今回の改正が3回目(第4次)となります。
この総合確保方針は、「医療介護総合確保推進法(地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律)」で国が策定する決まりとなっているものです。地域包括ケアシステムのあり方、医療・介護の基盤整備の方向性を示す政府の重要な方針と位置付けられ、介護保険法の改正や介護報酬の改定にも直接的・間接的に影響を及ぼします。
実際、今回の見直しについては、自治体の医療・介護の事業計画が同時に開始する2024年度を見据えたものだと説明されています。
したがって自治体、介護サービス施設・事業所、介護サービス従事者はしっかりと理解しておくべきものと言ってよいでしょう。
◆ 新しい「総合確保方針」
今回見直された「総合確保方針」では、今後の医療・介護の「基本的な方向性」として、いわゆる「2040年問題」を念頭に置きつつ、次のような5点を示しています。
(1)「地域完結型」の医療・介護提供体制の構築
○ 医療機能の分化と連携の重視、地域医療構想の推進
○ かかりつけ医機能が発揮される制度整備
○ 地域づくりの取り組みを通じた地域包括ケアシステムの更なる深化・推進
(2)サービス提供人材の確保と働き方改革
○ 従来からの処遇改善の取り組み、ICTや介護ロボットなどの活用、手続きのデジタル化などによる介護現場の生産性向上
○ 専門性を生かしながら働き続けられる環境づくりや復職支援、学校と連携した介護の仕事の魅力発信、介護助手の導入などの多様な人材の活用
(3)限りある資源の効率的かつ効果的な活用
○ 人口減少に対応した全世代型社会保障制度の構築
○ 医療・介護の効果的・効率的な提供、介護サービスの質の向上、介護サービス事業者の経営の協働化・大規模化、ケアマネジメントの質の向上を推進
(4)デジタル化・データヘルスの推進
○ 医療におけるオンライン資格確認等システムの環境整備、介護における介護情報の集約、医療情報と一体的運用を可能にする情報基盤の全国一元的な整備
○ 医療・介護分野でのDX推進
○ NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)、公的データベースの連結解析などを通じたEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)の取り組み
(5)地域共生社会の実現
○ 孤独・孤立や生活困窮の問題を抱える人々が地域社会と繋がりながら生活を送ることができるようにするための地域包括ケアシステムの多世代化
こうしてみると、地域共生社会の構築(いわゆる「丸ごと化」)、ICT/DXやデータヘルス改革による生産性向上が強調されており、それらはいずれも人口減少社会への対応を主眼としていることが分かります。
今後、中期的(3〜5年間程度)に医療・介護がこの方向性で動いていくことは間違いなく、短期的には次期介護報酬改定に影響を与える諸点となるでしょう。介護実践現場はこれらに対応することが否応なく求められることになるはずです。
◆ 注目される「ポスト2025年」
今回の総合確保方針の見直しにあたっては、「ポスト2025年の医療・介護提供体制の姿」という提言が付け加えられています。これは、これまで強調されてきた「2025年問題」の次の時代に向けてまとめられたものです。
この中には、「ポスト2025年の医療・介護提供体制の姿」として、次の「3つの柱」が示されています。
(1)医療・介護を提供する主体の連携により、必要なときに「治し、支える」医療や個別ニーズに寄り添った柔軟かつ多様な介護が地域で完結して受けられること
(2)地域に健康・医療・介護などに関して必要なときに相談できる専門職やその連携が確保され、更にそれを自ら選ぶことができること
(3)健康・医療・介護に関する安全・安心の情報基盤が整備されることにより、自らの情報を基に、適切な医療・介護を効果的・効率的に受けることができること
これを見ると、総合確保方針をさらに具体化し、医療・介護連携やデータヘルス改革の推進の必要性を強調していることが分かります。
とりわけ介護分野では、その実践現場のICT/DX化が遅れていると言わざるを得ません。医療と比べてもそうですし、欧米の取り組みと比べてもそう指摘できます。
人口減少・2040年問題を踏まえ、わが国でそれに取り組む必要性が政策的に強調されている、と理解しておかなければならないでしょう。
◆ 課題となっている基金の活用
そうは言うものの、介護サービス分野では経営規模の小さい事業者も多く、ICT/DX化の資金的な余裕がないこと、そのノウハウも乏しいことなどを嘆く実践者・経営者の声をしばしば聞きます。
そうした声に対応するために、「医療介護総合確保推進法」によって、2014年度から各都道府県に自治体と医療・介護事業者を対象とした補助金・交付金の事業体制が構築されています。これを「地域医療介護総合確保基金」といいます。
この基金の財源は、2014年4月と2019年10月に消費税が増税されたことによって確保されました。つまり、政府肝入りの施策と言ってよいでしょう。
この基金は都道府県ごとに医療分と介護分に区分けされ、様々な補助金などが示されています。
たとえば、介護事業者の外国人人材の確保に対する資金援助、ICT/DX化の機器の整備などへの資金援助は、「区分V:介護従事者の確保に関する事業」という事業・費目で明示されており、必要な要件を満たした事業者は申請によって補助金を得ることができます。
これについて、私は少し驚いたことがあります。この基金の執行率がかなり低いのです。せっかくの補助金が現場でさほど活用されていない、ということになります。
介護分の2015年度から2020年度までの執行率をみると、全体で67.4%にとどまっており、3分の1が使われていないというのが実態です。
さらに、そのうちの「区分V:介護従事者の確保に関する事業」の執行率をみると、全体では83.2%の執行率となっており、2割弱が活用されていないことになります。都道府県別にみると、執行率が最も高い山形県では99.0%となっている一方、最も低い島根県ではわずか56.4%にとどまっています。全体を概観しても60%台のところが目立ちます。
こうした執行率の低さの背景には、補助金の対象となる要件が厳しかったり、手続きが煩雑だったりする問題があるのかも知れません。
しかし、あまりにも低いこの執行率は「介護事業者の意欲の低さ」として受けとめられかねない側面もあります。なによりも、貴重な消費増税の財源を用いたこの基金の継続の必要性について、財政サイドが疑念をもつ懸念すらあると考えられます。使われない補助金などは、せっかくの予算が削減(あるいは廃止)されてしまうことも少なくありません。
介護事業者はICT/DX化について今一度認識を新たにして、補助金などを積極的に活用して環境整備を進める姿勢を持つ必要があるでしょう。