デジタル障害者手帳アプリ「ミライロID」が注目を集めている。障害者のポジティブな行動変容に貢献していると評価され、今年度のグッドデザイン賞を受賞した。
「ミライロID」は障害者手帳を登録することで、利用者が原本を持ち運ばなくてもスマートフォンで代替できるアプリ。国のマイナポータルとも連携済みだ。電子クーポンや障害者割り引きチケットなどを取得・購入することもでき、既に全国の3700を超える事業者が導入している。
株式会社ミライロの垣内俊哉代表取締役社長、井原充貴取締役を訪ね、これまでの苦労や描くビジョンを聞いてきた。【Joint編集部】
◆「何か貢献できることがある」
「環境、情報、意識のバリアをDXでなくしていく。世界中の障害者にとって住みやすい、暮らしやすい社会を実現していきたい。障害のある当事者の視点で貢献できることがある、という思いのもとで創業した」。
垣内氏は会社設立の経緯をこう語った。
大学2年の時に前身となる団体を設立。進学などで苦労した経験を基にしたアイデアがビジネスコンテストで評価され、そこで得た賞金をミライロの立ち上げに充てた。
アプリ開発のきっかけの1つは、障害者手帳の提示・確認の煩わしさにあった。
地域によってフォーマットが異なり、ミライロによると実に283もの書式が存在しているという。このため判別に時間がかかり、障害者、事業者の双方にとって大きな負担となってしまう。
こうした問題も生じない統一的なアプリを2018年から構想。2019年7月にリリースした。
◆ 苦労の連続だった道のり
「ミライロID」は本人確認書類の代替にもなる前例のないアプリだ。
「普及にあたり大きなハードルとなったのは、導入事業者数と公証性だった」と井原氏は話す。熱心に手紙を書いてアポイントを取った企業に足を運び、サービスの必要性・重要性を丁寧に説明。そうして1社ずつ関係を築いていった。
地道な営業を重ねていく中で、マイナポータルとの連携の話が持ち上がった。政府が提供を開始した「マイナポータルAPI」の民間活用の第1号として、「ミライロID」が採用されたのである。
マイナポータルと連携できたことで信頼を獲得。導入企業も大幅に増えていった。利用する障害者から、「忘れやすい特性があるので助かっている」「手帳をお店で出す心理的負担が減った」など、喜びの声が届くようにもなった。
「障害者の意見を丁寧に汲み取っていく。今後もミライロIDを当事者と一緒に作り上げていきたい」。井原氏はそう意気込んでいる。
◆「ハードもハートも変えていく」
グッドデザイン賞を受賞した理由の1つに、「障害者にポジティブな行動変容を促している」という審査員の評価があった。
障害者にとって紙の手帳を窓口で見せることは大きなストレスだ。スマホの画面を見せるだけで済む「ミライロID」は、障害者の外出、社会参加の後押しにもつながっている。
垣内氏はインタビューで、目に見えて分かりやすい物理的なバリアに社会の関心が集まりがちなことに疑問を呈した。
「ハードを変えることは予算などの面で難しいかもしれない。でもハートはいつだって簡単に変えられる」。そう熱弁した。例えば、紙の手帳を窓口で見せなければならない状況を障害者はどう感じているのか、そうした心のバリアにも目を向けて欲しいという。
今後については、「障害者がもっと買い物、食事、旅行へ行きたいと思える社会をDXの力で作っていきたい」と語った。