私は、介護保険制度施行までは在宅介護支援センターの社会福祉士の、施行後は居宅介護支援事業所の介護支援専門員(ケアマネジャー)の実務経験を経て現職に就きましたから、今般の制度改正の議論のなかで「ケアマネジメントへの利用者負担の導入」は最も気になっているポイントです。【高野龍昭】
これについては、2009年3月発表の『地域包括ケア研究会報告書』に「ほかの介護サービス同様に、居宅介護支援に利用者負担を導入することについて、どう考えるか(註1)」と提言されたのが端緒です。つまり2008年に検討され始め、今年で足掛け15年目の議論ということになります。介護保険制度の「最も古い懸案」と言ってもよいでしょう。
そもそも介護保険制度においてケアマネジメントに利用者負担が導入されず、10割の保険給付とされたのは、次の2点が理由です(いずれもこれまでに発出されたいくつかの公的文書・報告書などをもとに、私がまとめ直したものです)。
[1]の具体的な意味は、高齢者が介護サービスを利用する際には自己作成のケアプラン(セルフ・ケアマネジメント)でも良いものの、専門職であるケアマネジャーにそれを依頼した際に利用者負担を求めないこととして、適切な介護サービスを積極的に利用できるようにするということです。
[2]については、相談支援・手続き支援という「目に見えにくいサービス」は他のサービスと同様の利用者負担を求めることはしない、ということです。
こうした方針を、現時点でも政府・厚労省は堅持しているものと考えられます。
しかし、財務省の審議会などからの意見は、従来の「ケアマネジメントについても(中略)利用者負担を設ける(中略)仕組みとすべきである」という言い方(註2)から、2021年以降は「居宅介護支援については(中略)、他のサービスでは利用者負担があることも踏まえれば、利用者負担を導入することは当然である」という言い方(註3・註4)に変化しています(太字は筆者にて記入)。
以前より強い調子となったことが分かりますが、こうした言い方の変化は行政文書・審議会などの報告書では重要な意味合いを持ちます。いつまで経ってもケアマネジメントに利用者負担が導入されないことへの苛立ちとともに、財政サイドの強い決意がうかがえるものと言ってよいでしょう。
なぜ、財政当局は最近になってケアマネジメントへの利用者負担を一層強く求めるようになってきたのでしょうか。それは、介護保険の財源の問題という極めてドライな観点からであると、私は考えています。
介護給付に絞ってケアマネジメントの費用(居宅介護支援費)の伸びを見てみると、制度創設から間もない2003年度の費用額は約1790億円でしたが、2019年度には約4930億円と約2.8倍になっています。介護給付の費用額に占める割合も、3%台前半だったものが5%をうかがう水準に伸びています(図)。2019年度のその費用額を単純に比較すると、短期入所生活介護(約4221億円)や通所リハビリテーション(約3922億円)を大きく上回る規模となっています。
これほどの財政規模になっていながら、ケアマネジメントにのみ、言わば特例的に利用者負担を求めないままとするのは、合理的ではないという判断が働いても不思議ではありません。
一方、2019年度の費用額でみると、居宅介護支援(介護給付)・介護予防支援(予防給付)・介護予防ケアマネジメント(総合事業)の総計は約5200億円と見込まれます。ここに1〜3割の利用者負担が導入されることになると、年間約590億円の財政効果が見込まれます(筆者にて粗く試算)。
介護保険の10兆円を超える費用額からみると、この約600億円の財政効果を「1%にも及ばない『雀の涙』」「ケチくさい」とみる識者も多くいますが、私の目にはそうは映りません。
たとえば、2021年度の介護報酬改定は+0.65%(コロナ特例評価を除く)でしたが、それに必要な財政規模は年間約650億円であり、ケアマネジメントへの利用者負担導入と同規模の金額となります。したがって、財政サイドから見れば、決して無視できない財政効果があると考えるでしょう。
このことと、ケアマネジメントに利用者負担を求めないとしている原理・原則(前述の[1][2])の折り合いをどのように収めていくのかが、今後の焦点となります。
いずれにしても、こうした介護保険制度の2024年度改正については、7月に投開票が見込まれている参議院選挙のあと、8月以降に社会保障審議会・介護保険部会で実質的な議論が行われることになります。その動向に注視をしておきたいと思います。
※註1
『地域包括ケア研究会報告書』p26,三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2009年3月
※註2
『令和時代の財政の在り方に関する建議』p24、財政制度等審議会,2019年6月
※註3
『財政健全化に向けた建議』p48〜49,財政制度等審議会,2021年6月
※註4
『歴史の転換点における財政運営』p63,財政制度等審議会,2022年5月