厚生労働省は11月14日、次の2024年度の介護保険制度改正に向けた協議を進めている審議会で、新たな介護サービスの類型の創設を提案した。【結城康博】
訪問介護や通所介護など、複数の在宅サービスを組み合わせた複合型の仕組みを検討していくという。例えば、通所介護事業所が利用者の訪問サービスも担う形などが想定されている。
この提案を私は評価したい。コロナ禍に伴う臨時の特例措置として、通所介護事業所に訪問サービスを認めた実績も既にある。このコロナ特例について、私は当初から、在宅サービスの強化につながるため恒久化すべきと主張してきた。
ただ、新サービスが十分に広がって地域の介護難民の問題を解決するかというと、そこまでは期待できないと考える。満足な成果が出るのは一部の事業所、地域に留まるのではないだろうか。
最大の理由は通所介護の職員の意識だ。訪問サービスにはできれば従事したくない、と思っている人が多い。実際、私の卒業生も通所介護で働くことには積極的であっても、訪問介護で働くことには消極的な傾向がある。
そもそも、通所介護と訪問介護とでは専門性が異なり、同じ「介護」といっても「負担感」や「やりがい」などに大きな違いがある。実際、小規模多機能型居宅介護においても、「通い」「訪問」「泊まり」の全てに対応できる介護職員は多くない。通所介護事業所が訪問介護も一体的に展開するとなると、経営者は介護職員の確保・定着にかなり苦労するのではないだろうか。
また、コロナ禍が収束すれば、通所介護へ新たに参入してくる事業者も今より増えるだろう。そうなると、小さいパイの中での介護人材の奪い合いが更に激化していく。訪問サービスを敬遠する人材は少なからずいるため、それを展開していることは、人材確保の面から通所介護事業所にとってマイナスとなる懸念がある。
こうしたことにも目を向けて、国には今後の運営基準や報酬単価をめぐる議論を進めて頂きたい。
厚労省の審議会資料では、新サービス創設の狙いの1つとして、「例えば、特に都市部における居宅要介護者の様々な介護ニーズに柔軟に対応できるよう」と説明されている。都市部では在宅サービスが不足しているので、趣旨はよく分かる。ただ私は、事業所間の人材確保競争が激しい都市部より、むしろ過疎化が著しい地域の方が効果は表れやすいと感じる。
過疎化が進んだ地方では、訪問介護事業所が既に撤退してしまっており、かろうじて通所介護事業所のみが存在しているところも珍しくない。そのため、通所介護事業所が訪問サービスも提供できるとなれば、要介護者を自宅へ送って行く途中でスーパーなどに立ち寄る「買い物支援」も可能となる。また、利用者の暮らしを支える生活援助も極めて重要となるだろう。
繰り返しになるが、今回の新サービス創設の提案を私は評価している。過疎化した地域では有効な仕組みの1つとなるだろう。ただ、介護報酬の水準などが十分なものでなければ、人材確保の難しさから全国的な幅広い普及は見込めないと思う。一部の有力な事業者が好事例を作り、それが横展開で広がっていく動きには期待したい。