daihatsu-2025.3-banner-sp1-banner06
2025年4月10日

【天野尊明】介護職の賃上げ、“逆転劇”を起こすために 経済対策や期中改定に向けてできること

このエントリーをはてなブックマークに追加
《 介護人材政策研究会・天野尊明代表理事 》

厚生労働省から、最新の「介護従事者処遇状況等調査」の結果が発表されました。【天野尊明】

lineworks-2025.4-sp02-banner01

既に報道などでも触れられているため詳細は省きますが、常勤の介護職員の手当や一時金を含む平均給与額は月33万8200円となり、前年から1万3960円(4.3%)増加していました。一方で、あらゆる産業で賃上げが進むなか、全産業平均との格差は更に拡大した結果(月6.9万円→月8.3万円)となっています。


◆ 活発化する政治の動き


このことについて、「介護ニュースJoint」の記事でも、更なる賃上げを実現する追加的な施策の必要性を訴える声が相次いだ審議会の様子が取り上げられていました


ただし、2027年度に予定される次の介護報酬改定まで待って現状を甘んじて受け入れるべしという意見は、少なくとも介護事業者からはまったく聞かれません。むしろ、危機感や問題意識は強まるばかりというところではないでしょうか。


そうした声を受けて、政治の場でもすでに動きが始まっています。


例えば、自民党の自見はなこ参議院議員をはじめとする「医療介護福祉を守る参議院議員有志」15名は、昨年12月26日、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬について、物価・賃金の上昇に応じて適切にスライドする仕組みを導入することなどを求めて、加藤勝信財務大臣、福岡資麿厚生労働大臣、赤澤亮正内閣府特命担当大臣へ要望書を提出しました。


また、4月18日には「医療・介護・福祉の現場を守る緊急集会」の開催を予定しています。


同じく自民党の有志で構成され、末松信介元文部科学大臣が会長を務める「地域の介護と福祉を考える参議院議員の会」も4月9日に会合を開き、省庁・団体から寄せられた現状・意見を踏まえ、必要な財源の確保に向けて整理を進めています。


その他、ある厚生労働大臣経験者や大手団体の方にも動きがあると聞いています。今後、おそらくは与野党問わず、同様の発信があちこちで展開されていくのではないでしょうか。

welmo-article-2025.4-lp-banner01

◆ 埋め込まれている3年目の措置


問題は、政府や財務省がこうした動向をどのように受け止めるかということになります。今回の当コラムでは、その糸口となるものを皆さんと共有したいと思います。


いまとなっては随分昔のことのように感じますが、2024年度の介護報酬改定で従来3つあった処遇改善関連加算が一本化されるにあたり、それなりに悶着がありました。ただひとつにまとめるだけでなく、更なる賃上げが叶うものにしなければならないことや、(結果そうなったかどうかはともかく)できるだけ簡素な仕組みとしなければならないことなど、改定を扱う審議会はもちろん、あらゆる場で議論が交わされていました。


その上で最終的に、以下のような文言が示されていたことを、改めて思い出してみましょう。

<2024年度介護報酬改定に関する「大臣折衝事項」(令和5年12月20日)>

◯ 既存の加算の一本化による新たな処遇改善加算の創設に当たっては、今般新たに追加措置する処遇改善分を活用し、介護現場で働く方々にとって、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップへと確実につながるよう、配分方法の工夫を行う。

◯ 今回の報酬改定では、処遇改善分について2年分を措置し、3年目の対応については、上記の実態把握を通じた処遇改善の実施状況等や財源とあわせて2026年度予算編成過程で検討する。

この「大臣折衝」は、介護報酬改定に携わる財務大臣と厚生労働大臣が、様々なプロセスを経て「この内容で決着だ」とするセレモニーにあたり、その回の改定折衝の終着点となる重要なものです。


特に2024年度の介護報酬改定にあたっては極めて異例なことが書かれてあり、身も蓋もない言い方をすれば「処遇改善加算を新しくしたが、2024年度に2.5%、2025年度に2.0%の賃上げをする分“しか”措置していない」「2026年度の分は追って考える」となっているのです。


すなわち、いまの介護業界には今年度分までしか渡されていないということになりますが、この際重要なのはそこではありません。3年目の対応について、「処遇改善の実施状況や財源とあわせて2026年度予算編成過程で検討する」とされている部分です。


言うまでもなくこの「実施状況」は、冒頭の「介護従事者処遇状況等調査」の結果を指すわけですが、これをもとに「2026年度の予算でなんらかの措置をする」と明記されていると読むことができます。
 
3年の周期を待たずに行う介護報酬改定を、一般的に「期中改定」と言います。素直に考えれば、処遇改善加算に財源の追加を検討するという作業は「介護報酬改定」にかなり近いものと言うことができ、2026年度に一定の「期中改定“相当”の措置」がされる可能性は高いと受け止めることができます。

lineworks-2025.4-sp02-banner01

◆ 財源の大胆な投入を


しかし、私たちはこれをただ待っているだけではいけません。少なくとも、当初見込まれていた賃上げ幅(2024年度に2.5%のベースアップ)を上回る実績(平均給与額で4.3%アップ)が出ているとしても、全産業平均との格差はさらに拡がったという事実があります。そしてそれを補填する体力も、物価高などの影響により多くの施設・事業所には残っていません。


こうした厳しい現状を乗り越えるためには、今回の「期中改定“相当”の措置」を「微調整」として実現するのみで終わらせることなく、介護分野に労働市場での競争力を維持し得るだけの財源を、大胆かつ速やかに投入しなければならないのではないでしょうか。


それが正しく「期中改定」として行われるのか、新たな経済対策などを経たものになるのかも注目すべきですが、いずれにせよ、そうした特段の措置が介護分野に必要であることは、もはや明確となった段階と言えます。


「2026年度予算編成過程」のひとつの皮切りは、8月に各省庁で行われる概算要求です。まずはそこに向けて、業界に関わる人それぞれがそれぞれの立場で、できる限りのアクションを続けていきましょう。


Access Ranking
人気記事
介護ニュースJoint