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2025年4月4日

経営情報提出の義務化、非合理と本末転倒の解消が急務 乖離する制度と介護現場=小濱道博

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《 小濱介護経営事務所|小濱道博代表 》

これは、私が多くの介護事業者の経営情報の提出を代行してきた実績からの報告である。【小濱道博】

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介護業界は、急速に進む高齢化と深刻な人材不足の中で、介護保険制度の安定性と継続性がかつてないほど問われている。


こうした状況を背景に、厚生労働省は介護事業者の経営情報を集約し、政策立案や報酬制度の見直しに活用することを目的として、「介護サービス事業者経営情報データベース(介護経営DB)」の整備と報告の義務化を進めてきた。


3月31日に令和6年度の報告が終了した。これは単なる行政手続きではなく、今後の介護報酬改定、処遇改善加算の見直しなどのエビデンス形成にもつながる重要な制度である。


しかしながら、制度の導入と運用にあたっては、介護現場の実情との深刻な乖離が露呈し、全国各地の事業者に混乱と過大な負担をもたらす結果となった。


◆ 問われる妥当性


制度上、経営情報の報告は法人番号を単位に一元的に管理される一方で、実際の提出は原則として「事業所単位」で行われる。財務情報については、会計処理上の区分がある場合には事業所ごとの報告が求められ、区分がない場合に限って法人一括での提出が許容される。


報告を代行する中で、主業を建設業や医療機関とし、副業的に介護サービスを運営している法人が多く確認された。たとえば、本業の年商が1〜2億円、介護事業は年商1千万円程度といったケースが典型である。


しかし、こうした法人が法人一括で報告を行うと、売上、人件費、諸経費といったすべてのデータが合算されて提出されるため、介護事業の経営実態が統計上では完全に埋没してしまう。制度の目的が介護事業の実態把握にあるとするならば、これは本末転倒であり、制度設計そのものの妥当性が問われる。


運営基準に定められている「会計の区分」に従い、すべての事業者に対して事業所単位での提出を義務づけることこそ、制度の目的にかなうものである。


さらに、実務上の作業にも大きな非合理性が存在する。


会計ソフトを使用している事業者であれば、財務情報はCSVなどの電子データで提出可能であるが、職種別人数はすべて手入力で行う必要がある。常勤・非常勤の区分、資格別の人数、派遣社員の除外、兼務者の扱い、期首時点での報告といった複雑なルールが設定されており、単純な入力作業では済まない。


とりわけ、事業所数が100を超えるような大規模法人では、この手入力の負担は極めて重い。結果として、「現実的に提出は法人一括にならざるを得ない」という構造が生まれている。


このように、制度設計上は例外であるはずの法人一括での提出が、現場ではむしろ主流となってしまっている点に、制度の設計ミスが凝縮されている。介護現場では、勤務実績表を作成しているのだから、それに基づく職員数の提出で事足りるはずである。なぜ、資格別にしたのかが理解できない。

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◆ 単なる失敗では許されない


入力システムそのものも、多くの問題を抱えている。


厚労省の提供する操作マニュアルや動画解説は、会計ソフトの利用を前提としており、紙ベースや簡易なExcel処理に依存する小規模事業者には不親切な仕様となっている。


システム画面の構成も直感的とは言いがたい。専門知識のない事業者の間では、入力したデータの正確性に自信が持てないまま提出するしかない、という不安が蔓延している。


最近になってようやく、一部の必須項目に赤字表示が追加されるなどの改善が見られたが、こうした基本的なUI改善に2ヵ月以上を要している事実からも、制度設計と運用体制の不備がうかがえる。


制度周知の不足も、現場に大きな混乱をもたらした。


義務化にもかかわらず、小規模事業者の中には制度の存在自体を把握していない例も多く、提出期限直前に制度を知って慌てて対応するという事例も相次いだ。制度の意義や操作方法を理解するには一定の時間と学習が必要であり、本来であれば周知期間を十分に設けるべきであった。


特に象徴的であったのが、提出期限直前に行われたシステムメンテナンスである。


3月28日(金)18時から31日(月)8時にかけて、介護経営DBのログイン・提出が全面停止された。この期間は、ちょうど多くの小規模事業者が事務処理に充てる土日と重なっており、週末に提出を予定していた事業者にとっては、致命的な影響を与える結果となった。


例えるならば、確定申告の期限直前にe-Taxが停止されるようなものであり、行政の配慮の欠如が顕著に表れた事例である。この件については、各業界団体は強く抗議して頂きたい。


期日までの提出がなされなかった場合、介護保険法第115条の44の2に基づき、行政からの報告命令が発出される。命令にもかかわらず未提出の場合には、指定取消などの厳しい処分が可能とされている。


これほど重大な義務であるにもかかわらず、制度が事業者に十分に伝わっていないという事実は、単なる広報の失敗では済まされない。


◆ 実質を伴った制度設計を


本制度の最大の問題は、制度の理念と運用現場の実態が乖離している点にある。経営の「見える化」は重要である。しかし、その手段が非効率で、かつ制度的矛盾を内包しているのであれば、得られるデータは不完全なままに終わり、制度への不信を増幅させるだけである。


とりわけ、法人一括提出によって混入する「ノイズ」は、介護事業の実像をかえって曖昧にし、データベースの根拠性を損なう可能性すらある。


この制度は来年度から、障害福祉サービスにも義務化されることから、制度設計の再構築は急務である。具体的には、提出ルールの明確化と合理化、UI・UXの抜本的改善、提出支援体制の強化、税理士などの専門家への代行業務の解放、そして何より現場の声を踏まえた制度運用の柔軟性が求められる。


制度の理念を実現するためには、形式ではなく実質を伴った設計こそが必要なのである。介護経営DBの混乱は、その本質を私たちに問い直している。


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