介護の未来を“制度の外”から作り出す 介護職を所得倍増へ導く保険外サービスの可能性


上がらない介護報酬や深刻な人手不足で介護業界に先の見えない閉塞感が漂うなか、保険外サービスの振興を目指す事業者団体「介護関連サービス事業協会(CSBA)」が新たに発足した。【Joint編集部】
立ちはだかる構造的な課題にどう立ち向かおうとしているのか。協会の設立に込めた思いは何か。
未来への道をどう描いているのか学ぶため、代表理事を務めるイチロウ株式会社の水野友喜代表取締役を訪ねた。
◆「やらないといけない」
水野氏は取材に応じ、「保険外サービスは、これからの介護業界にとって避けて通れない領域だ」と語った。
「絶対に取り組んだほうがいいし、むしろやらなければいけないと思う。今の制度内だけで勝負しようとしても、打ち手は限られており厳しい。だが保険外であれば、工夫次第で新しい取り組みがいくらでもでき、可能性が広がっていく」
水野氏の言葉には、これまでの実践や経験に裏打ちされた確かな手応えが込められている。保険外サービスによって得た収益を活用し、自社ではすでに介護職の賃金を「めちゃくちゃ上げている」と明言する。
「制度内では“保険点数を積み上げるゲーム”から逃れられず、同じ土俵内での工夫には限界がある。だが保険外であれば、他業界のアイデアも持ち込めるし、自分たちの利用者に合ったサービスを自由に設計できる。その結果として、介護職の処遇を劇的に改善することも可能になる」
介護関連サービス事業協会・水野友喜代表理事のインタビュー動画はこちら↓
◆「介護職が潤う構造を」
保険外で得た利益を職員に還元し、人材の採用や定着にも好循環を生み出していく。そうした仕組みが、業界全体の底上げにつながっていく。これが水野氏の確信だ。
「高齢者の中には金融資産をしっかり持っている人が少なくない。一方で、現場で働く介護職がなぜこれほどまでに低賃金なのか。そこに保険外のルートを通して資源を流すことで、介護職がきちんと潤う道をつくることができる。この構造の転換に、本気で取り組む時期が来ていると考えている」
保険外サービスの意義について、水野氏はこうも語る。
「保険外サービスの収益によって事業所が安定し、十分な人材を確保できるようになれば、低所得者や困難事例などに対応する余力も生まれていく。そういう流れをつくることが、結果的に介護全体の持続可能性につながっていくと思っている」
保険外サービスはただの“選択肢”ではなく、介護の未来を切り拓く起点になり得る。水野氏は取材を通じ、そんな現場目線の実感と可能性を言葉に込めた。
◆ 質向上のガイドライン、今夏にも公表

介護関連サービス事業協会(CSBA)は、保険外サービスの普及と品質の向上を目的に設立された。
保険外サービスは今、地域によって提供されるサービスの種類や質にばらつきがあるほか、利用者やケアマネジャーから「どこまで信頼できるのか分からない」との声も多い。水野氏は「保険外サービスが当たり前に選ばれるためには、まず安心して使える環境を整えることが不可欠だ」と強調する。
CSBAが現在、最優先で取り組んでいるのがガイドラインの策定と認証制度の創設だ。最低限の基準を明確にし、一定の安全性と質を備えたサービスを“見える化”することで、利用促進につなげる狙いがある。今年夏の運用開始を目指し、すでに内容の最終調整が進んでいる。
ガイドラインの策定は難しく、どんな内容にするかは勝負どころだ。厳しすぎれば多くの事業者の道を閉ざす参入障壁となり、甘すぎれば介護の専門職や利用者の信頼を得られない。こうしたバランスをどうとるかが重要な論点で、CSBAでは実務的な議論が重ねられている。
初年度の対象領域には、生活支援サービスと配食サービスが選ばれた。高齢者のニーズが高く、事業者数も多いこれらの分野でまず信頼性のある基準を整え、社会的な認知と実績を積み重ねる狙いがある。
「まずは1つ成功事例をつくることが重要。それが次の領域の広がりや制度提言にもつながっていく」と水野氏。協会はこの先、サービス類型ごとに議論を深める分科会を増やしながら、保険外サービスの地図を少しずつ塗り替えていく方針だ。