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2025年1月14日

【結城康博】至急、処遇改善加算の要件を大幅に緩和せよ 単なる据え置きでは話にならない

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《 淑徳大学総合福祉学部 結城康博教授 》

昨年末の審議会で、介護報酬の処遇改善加算の「更なる取得促進に向けた方策」が示された。厚生労働省はこの中で、来年度からの実施を予定していた要件の厳格化を、再来年度まで1年間見送る方針を打ち出した。【結城康博】

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◆ ハードルを下げないと変わらない


しかし、その内容は全く話にならない。現行の要件を継続しただけで、取得促進に向けた方策としては不十分だ。


介護現場は危機的な状況にある。必要なのは速やかな要件の緩和ではないだろうか。


例えば「職場環境等要件」。厚労省はこれまで、事業所に実施を求める取り組みの数を来年度から増やす計画を掲げていたが、今回それを再来年度まで先送りした。あわせて、「キャリアパス要件」の「資格や勤続年数に応じた昇給の仕組みの整備」などについて、今年度と同様に、来年度も事業者の誓約で事足りる扱いにすると新たに説明した。

※ 厚労省の処遇改善加算の更なる取得促進に向けた方策はこちら

しかしいずれも、ハードルを上げることを一時的に止めたに過ぎない。重要なのは現状維持ではなく、思い切って高さを下げることだ。そうでないと、上位区分を取得することの難しさは変わらない。


◆ 訪問介護の厳しい現状


特に厳しい状況にあるのは訪問介護の事業所だ。人材不足が極めて深刻だが、加算Iの算定率が相対的に低い。未取得の事業所も多くなっている。利用者の自己負担の引き上げを懸念し、あえて取得しないケースが含まれる可能性もある。

加算Iの事業所が3分の1強にとどまっていること、加算III以下の事業所が4分の1を超えている(27.6%)ことは、大きな問題だと言わざるを得ない。


周知の通り、訪問介護の基本報酬は今年度の改定で引き下げられた。「代わりに処遇改善加算を大幅に拡充した」という厚労省の説明も、記憶に新しいことだろう。


そうであるなら、大半の事業所が加算Iを取れている状況が生まれていないとおかしい。現状は加算II以上で72.3%だが、あまりにも低すぎるのではないだろうか。結果的に、多くの事業所が改定前より厳しい状況に追い込まれているのが現状だ。

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◆「職場環境等要件」は努力義務でも…


政府は早急に、大半の事業所が加算Iを取得できるように要件を緩和すべきだ。


たとえば、「経験・技能のある介護職員の一定割合以上の配置(訪問介護なら介護福祉士30%以上)」は、抜本的に考え直すべきであろう。人材不足が深刻化するなか、この要件を満たしたくても満たせない事業所がある。


あわせて、「職場環境等要件」の大幅な緩和も欠かせない。加算Iの取得率の引き上げを優先させ、もはや努力義務のような規定とすることも検討すべきではないだろうか。


繰り返しになるが、介護現場の人材不足は極めて深刻だ。


2023年度は介護職員の人数が初めて前年度比で減少した。介護職員による高齢者虐待の件数も過去最高となっている。たとえ加算Iの取得率が9割を超えても、目下の非常に厳しい状況は全く変わらないだろう。


至急、臨時の報酬の引き上げや新たな公費助成などにより、介護職員の更なる賃上げの実現が求められる。他産業との格差は開くばかりで、介護業界は人材獲得競争でますます劣勢となってしまう。


処遇改善加算については、その取得率が高くないと財政当局が「まず執行率向上を!」と言いかねない。その意味でも、要件の大幅な緩和の実現が急がれる。


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