みんなが自分の歩みたい道へ 厚労省が描く介護の新たな「山脈型」キャリアモデル
「富士山型」から「山脈型」へ。厚生労働省が新たに描き、現場への普及・浸透を目指している介護職員のキャリアモデルだ。【Joint編集部】
広い裾野、高い山頂をイメージしたのが「富士山型」。多様な人材の参入を図りつつ、専門性を明確化・高度化して登る道を作るという意味合いがあった。
これをアップグレードしたのが「山脈型」。大きな違いは、頂上が1つではないところにある。広い裾野のどこから入ってもよく、どの頂上をどのように目指すかという選択肢が多い。途中でルートを改めたり、状況に応じてしばらく立ち止まったりすることもできる。
「様々な歩き方がある。職場のマネジメントだけでなく、例えば認知症ケアや看取りケアを極める、地域づくりに力を注ぐといった道もある。介護職員には多様な活躍の姿があり、ひとりひとりがより自由に選べるというビジョンを示したかった」
厚労省の吉田昌司福祉人材確保対策室長は、インタビュー取材に応じてこう説明した。「それぞれの意欲、能力、ライフステージなどに応じたキャリアパスを構築し、人材の定着促進や資質向上につなげられれば」と話している。
厚労省は来年度から、この「山脈型」キャリアモデルの普及・浸透に向けたモデル事業を始める計画だ。
−−「富士山型」と「山脈型」の違いを教えて下さい。
従来の「富士山型」は、介護福祉士をはじめ人材の専門性の明確化・高度化を図るとともに、介護職員の裾野を広げるという発想に基づくものでした。
これを更に発展させたのが「山脈型」です。目指す頂上が複数あり、そこへの登り方も1つではありません。より幅広い選択肢がある、様々な活躍の姿があるということを示しています。
それぞれの意欲、能力、ライフステージなどに応じたキャリアパスを構築し、人材の定着促進や資質向上につなげられればと考えています。
−− 選べる道が多ければ、仕事の魅力ややりがいの向上にもつながるということでしょうか?
そうですね。自分の将来像を自ら描けることは大切だと思います。
例えば、職場のマネジメントが得意でないという意識を持つ方もおられるでしょう。それしか進む道がないとすれば、やがて「もうこの仕事きつい…」と感じても仕方ありません。
そこに、例えば認知症ケアや看取りケアを極める道、小中学校の出前授業など地域で介護への関心を高める道、あるいは事業所におけるサービスや人材・経営のマネジメントを担う道があったらどうでしょう。自分のキャリアが限られていると感じることはなく、より前向きに働いていけるようになるはずです。若い人にとっても、こうした選択肢の多さ、自由度の高さは魅力的に映るでしょう。
−− 働き方の多様化も進んでいます。
おっしゃる通りです。働く方の考え方や意識も多様化しています。個人差はありますが、職場では様々な迷い、悩みを抱えながら、色々と模索しながら働いている人がほとんどです。ご本人の結婚、子育てなどライフステージの変化も大きな影響を及ぼします。
個々の成長は重要ですが、当然それだけではありません。法人・事業者が大切にする考えや方針と意識を擦り合わせていくことも必要でしょうし、また、キャリアパスも常に直線ではなく、それぞれが試行錯誤を重ねながら、行きつ戻りつしながら発展させていくものです。
「山脈型」のキャリアモデルと言っても、ただひたすらに登り続けろ、みな厳しいピークに挑めという話でもないと思っています。より多くの選択肢があるということで、皆さんが希望する道を歩き続けられる環境整備が必要ですし、研修体系の整備なども含め、国としてもそれを応援していかなければいけません。
−− 事業者サイドの役割も大きそうですね。
ひとりひとりのニーズ、望む働き方などをしっかりと受け止め、それに応じたサポートをしていくことが欠かせません。職員と対話を重ね、どんな役割を担ってもらうか、どのように活躍してもらうかを擦り合わせることが重要になるでしょう。
そうした取り組みで職員の可能性を広げることが、人材の確保・定着、サービスの質の向上につながるのではないでしょうか。
新たな「山脈型」は職員の意思を尊重するもので、現場にフィットしやすいキャリアモデルだと考えています。既に多くの先進的な法人・事業者が同様の取り組みを進めておられ、そうした皆様の声を反映して生まれた考え方でもあります。
先般成立した今年度の補正予算で、普及促進のためのモデル事業の予算を確保しましたので、それも活用し、多くの法人・事業所に広がるように進めていきたいと思います。
多様なキャリアパスが職場の中で整備されれば、いろんなキャリアを歩む人が出てきます。その姿をみる同僚・後輩たちにとっては、それがロールモデルになります。それはその職場で長く働くことにつながるでしょうし、例えば、新たに介護の世界に入ろうとしている若い学生さんにとっても魅力になるでしょう。
そういう好循環がいろんなところでできればいいですね。我々も更に皆様から学びつつ、より良い支援策を講じられるように一層尽力していくつもりです。