【青柳直樹】メンタルが強い人はいない! いるのは対処のうまい人 介護職は心のケアを大切にしよう
今日も介護現場で働いている皆さん。お疲れ様です。心身の健康状態はいかがでしょうか? 少し疲れを感じたら、この記事をお読み頂けると嬉しいです。【青柳直樹】
介護は体への負担だけでなく、心にも負担がかかりやすい仕事です。深刻なメンタル不調に至らないよう、日頃からの十分なケアが欠かせません。もちろんご利用者は大切ですが、まずは皆さんがご自身を大切にして頂ければと思います。
青柳直樹|医師。2017年にドクターメイト株式会社を創設。日本ケアテック協会の理事も務める。介護施設が直面する医療課題に対応すべく、オンラインの医療相談や夜間のオンコール代行などのサービスを展開中。介護職の負担を減らすこと、利用者の不要な重症化、入院を減らすことなどに注力している。
◆ 介護は難しい仕事
介護の仕事がメンタル不調を招きやすい理由はいくつかあります。
まず大きな特徴は、人を相手にする仕事だという点です。物を扱う仕事と違い、それぞれ異なる臨機応変の対応が常に求められます。
また、介護は周囲の職員と協力してチームで取り組まなければいけません。元々ご利用者に個別性の高い対応をとっている中で、周囲の様々な考え方や人間関係にも配慮して動かなければならない…。かなり難しい仕事だと言っていいでしょう。
シフト制の勤務形態にも課題があります。特に、夜勤を含む不規則な生活リズムが続いてしまうと、脳内のホルモンバランスが非常に乱れやすくなります。
このほか、給与水準や社会的評価の低さから自己効力感が低下する方もおられるでしょう。ご利用者・ご家族のハラスメントの問題も、少なからぬ影響を与えると言わざるを得ません。
こうした様々な要因があることから、介護の仕事はメンタル不調を招くリスクが非常に高くなっています。
◆ 個人の問題じゃない
特に注意が必要なのは、真面目で一生懸命な皆さんです。いつも頑張っていて、介護現場で周囲から頼りにされている方ほど、メンタル不調を起こしやすい傾向があるんです。
こうした素敵な方々には、ぜひ本来の力を発揮して自由に活躍していただかなければいけません。メンタル不調は決して個人の問題ではありません。職場環境を左右する全体の問題です。
だからこそ、日頃からのメンタルケアが非常に重要になるんです。それでは一体、どんなことに気をつければいいのでしょうか。
◆ 落ち込むのは当たり前
まずは個人レベルの注意点です。
最も重要なのは、十分な睡眠をとることです。なかなか眠れない場合は、用法用量を守って睡眠導入薬を適切に活用することも一案でしょう。
睡眠が十分に取れていないと、思考が堂々巡りする「反すう思考」に陥りやすくなります。その結果、日常の小さな悩み事やミスなどが頭から離れにくくなり、自分でメンタルを追い詰めてしまいがちになります。
また、別のことに意識を振り向ける時間も大切だと覚えておいて頂きたい。例えば、趣味に没頭することは効果的です。何か新しいことを始めてみるのも良いでしょう。
特におすすめなのは、日の光を浴びながら規則的な運動をすることです。歩いたり自転車をこいだりすると、脳内のセロトニンというホルモンが増加します。これは気分を向上させる働きがあるため、メンタルの安定に効果を発揮します。
あわせて、職場内のコミュニケーションも重要です。
多くの方は自分1人で問題に向き合おうと思いがちですが、誰かに少し話すだけでも大きな支えになります。1人で抱え込まずに外に出す、という意識付けが重要と言えるでしょう。もし誰も話す人がいなければ、思ったことをそのまま書き出すことも効果的です。
十分に寝ること、適度に体を動かすこと、思いを外に出すことが、メンタル不調を未然に防ぐポイントになります。ありきたりのことを言うようですが、これらの効果を決して過小評価しないでほしいと切に願います。
人間は気分の上がり下がりが生じる生き物です。落ち込むのは皆さんが弱いからではありません。ごく普通のことなんです。メンタルの強い人はいません。いるのは対処がうまく、深刻化する前に自分なりに整理できる人だけです。
◆ 何より状態を見極めること
最後に事業者側の注意点です。
メンタル不調にはいくつかのパターンがあり、それぞれに応じた対策をとることが重要になります。
例えば、真面目に頑張る性格の方が業務の負担を自ら抱え込み、結果的に自分自身を追い詰めてしまうケース。こうした場合、管理者がその職員の業務状況を注意深く見て、必要に応じて支援の手を差し伸べることが重要です。
また、入職して間もない職員が期待と現実のギャップに苦しんでいるケースもあります。この場合、管理者が寄り添って小さな成功を評価したり、長所を探して褒めたりすると良いでしょう。
つまり、職員の状態を的確に見極めることが何より大切だということです。そのためには、職員同士のコミュニケーションを活性化させることも重要になるでしょう。職員間で気付いたメンタル不調を共有し、管理者と連携して職場全体でサポートできる体制を作ることが有効です。カウンセリングの導入や休暇制度の充実などは、具体的な対応策の1つに過ぎません。
特に対話の場は非常に大事です。それぞれが自分の意見や気持ちを安心して表現できる職場環境づくりが、職員のメンタルヘルスを守ることに大きく寄与するでしょう。