【小濱道博】今ここが分岐点 介護職の賃上げ支援、事業者間格差が拡大する
11月29日に閣議決定された今年度の補正予算案から、厚生労働省の本気度が伺える。【小濱道博】
介護人材の確保は喫緊の課題であり、更なる賃上げを図る施策は重要である。このため今回、追加的な処遇改善に向けた補助金が緊急的に設けられた。
ただし、補助金を受給するためには、事業所・施設が介護職員の業務の洗い出しや効率化、更なる改善策の立案などを行う必要がある。特に施設系は、「生産性向上推進体制加算」の取得に向けた取り組みが求められる可能性もある。
さらに、来年度からは処遇改善加算の要件が大きく変わり、「職場環境等要件」の生産性向上の取り組みが必須となる。上位区分を算定するためには、3つ以上の取り組みを実践することに加えて、委員会の設置、または現場の課題の見える化が必要だ。また、介護記録ソフトや見守りセンサーなどの導入も選択肢の1つとなっている
「職場環境等要件」の生産性向上の取り組みは、事業者がやるべき順番に並んでいる。まず業務改善委員会の設置から始める。そこで現場の業務を洗い出し、問題点を抽出し、次に5S活動(整理、整頓、清掃、清潔、躾)を実施。重複書類の統合や不要作業の除去、業務ルールの明確化によって業務をシンプル化する。
この一連の流れで、算定要件の3つの取り組みを満たすことができる。その上で、介護記録ソフトや介護ロボットの導入を検討する。ICT化ありきではなく、あくまで業務改善のツールの1つとしてテクノロジーが存在する、という捉え方が重要だ。ICT化の失敗要因は、ICTの導入自体が目的となり、本来の目的である職員の負担軽減が二の次になることである。
この取り組みを行うことで、新たな補助金の受給要件となっている業務の洗い出し、棚卸し、効率化、改善方策の立案などが、同時に満たされることになる。このプロセスは、コンサルタントなどに依頼することで比較的容易に構想できるだろう。
◆ 倒産・廃業が増える懸念
一方で、小規模事業者にとっては時間的・資金的な負担が大きい。業務の洗い出し、棚卸しだけでも多くの時間と手間を要するからだ。
この補助金は未受給となる事業者が出ることが予想される。来年度の処遇改善加算の厳格化も同様に課題を残す。取り残される事業者も出てくるだろう。結果として、事業者間の賃金格差が広がり、倒産や廃業が進む懸念がある。
求職者は賃金の高い事業所を選ぶ傾向が強まっており、事業者にとって賃上げは不可欠だ。処遇改善加算も可能な限り最上位区分を算定し、適切な規模で賃金を引き上げていかなければならない。介護は福祉であるから賃金の多寡は二の次 − 。そんな時代は過去のものとなった。
介護事業の大規模化や協働化が進む中、小規模事業者が取り残されることを防ぐには、業界団体や地域の連携が重要である。国は制度設計を優先するもので、個々の事業所を守る責務はない。だからこそ、業界全体で小規模事業者を支援し、団結して取り組む必要がある。