先の衆議院選挙により、自民党・公明党は少数与党となり野党の影響力が強まった。今後、国の介護施策に大きな動きが見られるかどうかが注目される。【結城康博】
重要なのは議論の仕方、論点の立て方だと考える。介護は「高齢者の生活を支えるため」といった意義を言い続けるだけでは、今後の政治の場では通用しないであろう。
◆ 介護政策の行方
立憲民主党は今月7日に発表した独自の経済対策に、訪問介護への緊急支援の実施を盛り込んだ。今年度の介護報酬改定による基本報酬の引き下げを、実質的に元に戻したい考えを示している。
ここに焦点を当てた点は評価できる。立憲民主党は衆議院の予算委員長のポストを得た。他の野党と共に働きかければ実現できなくもない。国家予算全体からみれば、訪問介護の基本報酬を元に戻す額は微々たるものだろう。
国民民主党は「ケアマネジャーの更新研修の廃止」を提唱している。多くのケアマネが期待を寄せているのではないだろうか。今後の動きに注目したい。
しかし、与党と国民民主党との協議では、「103万円の壁」の解消や「トリガー条項」の凍結解除などが優先されている。ケアマネの人材確保、負担軽減の問題がどこまで取り上げられるかは未知数だ。
介護職員の更なる処遇改善については、与野党がその必要性を概ね共有していることから、近く具体化される可能性が高い。しかし、どの程度の規模で実現するかは分からない。立憲民主党が提言しているのは月額プラス1万円。大幅な賃上げの実現は難しいのではないだろうか。
もっとも、参議院では未だ与党が過半数を維持している。このため、野党の介護施策がすぐに実現されるとも限らない。来年夏の参院選の結果が出るまでは、大きな前進は見られないかもしれない。
また、衆議院で与野党の勢力が伯仲している状況下であっても、高齢者の負担増が進められる可能性は十分にある。これを容認する論調が、一部の野党にもみられるためだ。次の介護保険制度改正をめぐる議論では、「自己負担2割の対象者の拡大」や「ケアプランの有料化」といった施策が、「やむを得ない」と結論付けられることもあり得る。
◆ 介護は経済のため!
関係者の危機感とは裏腹に、介護施策に対する国民の関心は薄い。介護施策が投票行動に大きな影響を与えるとは言い難く、参院選の争点にもなりにくいのが現状だ。
介護施策を大きく前へ動かすためには、この状況をなんとか変えなければいけない。国民の関心を高めて争点化することが不可欠である。
そのためには、「要介護者のため!」という論理だけでは足りない。国民的な議論は盛り上がらず、介護施策の拡充・進展は望めないであろう。
関心が集まりやすいのは経済だ。まずは介護離職の問題、ビジネスケアラーへの支援を前面に出すべきと考える。これが十分でなければ、日本経済は全体として大きな支障をきたす。このことを周知し、国民の理解を得ていくことが重要ではないか。
介護職の賃上げも同様だ。内需の拡大につながり、地域経済にも寄与する。単に「人がいない」「このままでは大変だ」と言っているだけでは、業界外の国民はひきつけられない。重要な議論がなかなか熱を帯びないのではないか。
介護施策の充実は、日本経済を良くする観点から必要不可欠 − 。この考え方を繰り返し発信し、国民の間に広く浸透させていかなければ、政治の場では勝負にならないと考える。