【天野尊明】波乱の衆院選 変わる政治の力学 介護業界が今すべきこと
10月27日に投開票された衆院選は、自民・公明両党が大きく議席を減らし、与党が過半数を割り込む波乱の結果となりました。【天野尊明】
与党のここまでの大敗は政権交代が起きた2009年以来。解散総選挙を主導した自民党の石破茂総裁、森山裕幹事長の責任問題は避けられないと言えるでしょう。
さて今回は、この出来事が介護業界にどのような影響を与えるかを考えてみたいと思います。
◆ 続く混乱と与党への不信
まず、政権運営が不安定になることは言うまでもありません。与党だけで方針を決定することができなくなるわけですから、他党と連立を組むか、そうでなければ都度、協力を得なければ何ひとつ進みません。
官僚にとっても、これまでのように与党だけを相手にしていれば済むわけではなくなります。法案審議のプロセスは非常に複雑化するでしょう。
また、今回の衆院選で「自公政権にお灸をすえよう」という人々の溜飲はいくらか下がっているかもしれませんが、まだまだ「政治とカネ」の問題のレッテルがきれいに剥がれたわけではありません。今後も政権に対する世論の不信感は一定程度続くでしょう。
一般的には、選挙後すぐに石破政権が退陣するシナリオとならなければ、来年度予算の成立後に首相を交代させるという流れになるものと考えられます。それまでは苦しい環境下での運営を迫られるなか、石破政権の評価が好転していく可能性は高くありません。
また、仮に党内外の反発に押されて石破首相が途中で退陣したとしても、よほどのどんでん返しがない限り、状況が劇的に変わることは考えにくいでしょう。
◆ 増す不透明感、先行きは霧の中
この、いわば「政治が弱い」期間を好機ととらえるのは、やはり財務省ではないでしょうか。
衆院選のさなかに、「秋の建議(提言)」に向けて財政制度等審議会をキックオフさせたことも報じられましたが、絶対的に強力な政治の力が存在しない状況を使い、提言の踏み込みをぐっと深くしてくることも考えなければなりません。
一方で、次の大規模な国政選挙は来夏の参院選。もう実質8ヵ月ほどしかないうえに、それと同時に再度の衆院解散・総選挙が行われないという保証もどこにもありません。
それまでの間、これ以上支持率を下げられては困る政治の側が、財務省の厳しい改革論を必死で抑えにかかるということもあり得ます。それ以前に、近く編成される予定の補正予算案で、物価高などを考慮した支援策を講じていく方向性が既に示されているところであり、そこで政治の側が「態度」を鮮明にしていくことも考えられるでしょう。
◆ 今こそ大きなチャンス
こうした状況を踏まえて、私たち介護業界側に求められることは、平時以上に合理的で客観性の高い提案を、国民目線でしっかり政治に届けていくことに他なりません。
政局が安定していれば、ある種風物詩的に報酬アップを求めるような大雑把な作戦も効果的なのですが、利害関係がより複雑化しているこのような状況では、「いま何が、なぜ必要なのか」というリアリティとタイミングが非常に重要になります。
私たちの声に十分な重みがあり、適切なタイミングで届けられれば、それは政治家の武器となり、財務省への反論材料として活かされるかも知れない。次の選挙でのカードになり得るかも知れない。その見込みが普段よりも立ちやすいこの時期を、見逃す手はありません。
本来、介護をはじめとする社会保障施策に政党ごとのイデオロギーが干渉してはならない、と思うところではあります。ただ、それが事実として避けられないものであることもまた、私たちはよく知っています。
それだけに、「介護関係者の多くが共感する問題意識をできるだけ大きな声で届けていく」ということの価値を、この機会に改めて見つめ直してみませんか。