【伊藤亜記】生産性向上の先に目指すべきこと 介護のプロを育成するために
最近、介護サービス事業の経営者の方々から、職員の皆さんについてこんな悩みを伺いました。
「意欲がない」「気付きがない」「他の職員の文句ばかり言う…」。
また、「何か新しいことを始めようとしても、自分たちがやっていたことが悪いのかと前向きに捉えない」といったご相談も頂きました。私達ができることは何でしょうか。【伊藤亜記】
介護現場の生産性向上、あるいは業務改善が重視されています。今年度の介護報酬改定でも、その推進を図る基準の見直し、加算の新設、要件の変更などが多く実施されました。
生産性向上や業務改善は、日々の仕事のムリ・ムダ・ムラを洗い出し、できるだけ解消していく一連の取り組みを指します。例えば、
1. 職場環境の整備
2. 業務の明確化と役割分担
3. 手順書の作成
4. 記録・報告様式の工夫
5. 情報共有の工夫
6. OJTの仕組みづくり
7. 理念・行動指針の徹底
などがあげられるでしょう。日々のお客様へのケアにあたって、当たり前のことを当たり前に、誰でもできる体制を構築することが重要とされています。
お客様のニーズは、特にICT機器などを活用した情報共有の工夫にあるのではないでしょうか。健康状態だけでなく、言葉や表情などから汲み取った思いなども漏らさず効率的に共有し、それらを確実にケアに反映させていけば満足度が高まるはずです。
これらをベースとして、私達が何より目指していかなければならないのは、職員の離職を防止し、新たに採用しやすい環境を作ることです。そして、組織として「介護のプロ」の意識を高め、それに相応しい人材を育てていくことです。生産性向上や業務改善はそのためにこそ推進すべき、というのが私の考えです。
◆ 真剣に考え、話し合える組織か
それでは「介護のプロ」とはどんな人材でしょうか。
当然、介護職としての十分な経験や知識、教養、安心して任せられる技術が必要です。思いやりの心と笑顔を絶やさず、コンプライアンスやリスクマネジメントを重要視すること、3年に1度の制度改正・報酬改定によるルール変更を正しく理解することも求められます。
それだけではありません。お客様と向き合い、その方の希望に沿った生き方や暮らし方のニーズを把握し、ケアマネジャーに提案してケアプランに位置付け、それを具現化するための計画書を作成し、きめ細かく実践していくことが重要です。
そして、日々の介護記録をICT機器などで効率的に共有し、こまめにケアを振り返り、「本当にこのままで良いのだろうか」とチームで検討・改善することも、介護のプロとしては非常に大切となるでしょう。
不安な表情をされているお客様がいたら、「どうしてなのか? 私たちが今やるべきことは何か」と真剣に考え、具体的に話し合える組織を作っているかどうか。このことが、プロの介護職を育成するのか、平凡な介護職を育成するのかの大きな分かれ道となります。
トップが「こんなものだろう。仕方がない」といって妥協すれば、その組織のサービスや業務はマニュアル以上に進化しません。たとえ生産性向上の手順書を作ったとしても、職員は単にそのまま従うだけ。それらに疑問を抱いたり、考えて見直したりしない職員が育ってしまいます。
職員を介護のプロとして育成するためには、その専門性とは一体何なのかを真剣に考え、しっかりと共有することが大切だと思います。
◆ まずは難しく考えずに
職員が介護のプロとしての学びを楽しみ、自分への自信を徐々に深められるようになっていけば、いずれ専門職としてのやりがいと醍醐味を実感することにもつながります。結果として、その職員は良い育成者へと成長していくでしょう。
このような取り組みは、朝の申し送りなどの機会も使いつつ、様々な職員と相談しながら進めると良いと思います。組織内の職員だけでなく、ケアマネジャーや他の専門職、ご家族などの様々な意見も聞きつつ、チームとして対応することも大切です。
まずは難しく考えずに、職員の皆さんに日々「これでいいのかな?」と投げかけ、意見を引き出す癖付けを始めてみると良いでしょう。お客様が喜び、幸せを感じることが職員の喜び、幸せになる。皆さんも介護のプロを育成し、未来ある職場環境を作って頂ければ幸いです。