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2024年10月8日

【結城康博】最低賃金1500円で介護業界は崩壊する 介護報酬5%引き上げが絶対条件

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《 淑徳大学総合福祉学部 結城康博教授 》

石破新政権が誕生した。私が最も不安視しているのは、「最低賃金を2020年代に1500円へ」という政策目標だ。


しかも、経済3団体のトップが石破首相と会談した際に、経済同友会は最低賃金を3年以内に1500円とするよう要請したようだ。これが仮に実現したら、介護業界は深刻な事態に陥りかねない。今回は、最低賃金の引き上げが及ぼす影響について考えていきたい。【結城康博】

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◆ 大いに喜ぶべきだが…


8月29日、全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされた。今年度の最低賃金は全国平均で1055円。過去最大の51円の引き上げとなった。


これは基本的に喜ばしいことだ。日本経済を好転させる良い効果を大いに期待したい。


それでは、最低賃金を2020年代に1500円まで持っていくためにはどうすべきか。来年度から2029年度までの5年間に、毎年平均で89円引き上げていく必要がある。また、向こう3年間で1500円にするためには、毎年平均で150円も引き上げねばならない。


これが実現できたらすごいことだ。最低賃金が1500円になれば、多くの労働者の可処分所得が増えて内需の活性化につながるだろう。


しかし、介護業界はより厳しい現実に直面するのではないか。人材不足に拍車がかかることになりかねないと危惧する。

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◆ 取り残される介護業界


仮に、このまま最低賃金が上がっていけば、一般的な事業者は人件費の増大を価格転嫁、商品の値上げでカバーするに違いない。便乗値上げを懸念する消費者もいるだろうが、長い間デフレだった日本経済全体を考慮すれば、やはりメリットの方が大きいと考える。


しかし、介護事業者は公定価格の縛りで柔軟な価格転嫁ができない。最低賃金の引き上げで事業所の平均賃金が上がるが、そのコストを補える収入増は見込めない。


結果、専門職の賃上げも不十分なものとなってしまう。彼らの相対的な給与水準の低さが、一段と顕在化する事態につながりかねない。


介護報酬は定期的に改定されるため、いずれは賃上げの元手を得られる可能性も出てくるだろう。しかし、一般的な労働市場とのタイムラグは避けられない。介護業界はしばらく取り残され、明らかな劣勢に立たされてしまう。


そもそも、最低賃金を大幅に引き上げるのであれば、同時に介護報酬の臨時改定も速やかに実施すべきではないか。そうでなければ、介護現場を支える専門職と一般労働者の給与差が縮小する。貴重な人材の他産業への流出などが加速し、深刻な人手不足の更なる悪化を招きかねない。

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◆ 介護報酬の大幅な引き上げを


介護事業者でつくる9団体は9月19日、介護職員の賃上げの動向を明らかにする緊急調査の結果を公表した。正社員として働く介護職員の今年度の賃上げ率は、平均で2.52%(6098円)となっている。


しかし、「中小企業の賃金改定に関する調査(日本商工会議所・東京商工会議所)」の結果によれば、今年度の正社員の賃上げ率は平均で3.62%(9662円)。既に介護業界は明らかな劣勢に立たされているのだ。


政府の最低賃金の引き上げに向けた動きは、多くの労働者にとって歓迎すべきことである。しかし、介護業界にとってはリスクが大きい。人手不足が加速し、安定したサービスの提供が危うくなる懸念が強い。


このような深刻な事態を回避するためにも、次の介護報酬改定では、少なくとも5%以上の引き上げが絶対条件となろう。これが実現されなければ、介護業界は労働市場で完全に惨敗する。結果、多くの国民を苦しめる介護崩壊につながるだろう。


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