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2024年9月2日

【小濱道博】経営情報の提出義務化の問題点 介護事業者が意識しておくべきこと

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《 小濱介護経営事務所|小濱道博代表 》

今年度より、介護サービス事業者の経営情報の提出が義務化された。【小濱道博】

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昨年度の財務データを、来年1月から3月の間に都道府県へ提出しなければならない。これは、原則として社会福祉法人を含む全ての事業所・施設が対象で、みなし指定の保険医療機関などの事業所も例外ではない。


提出の対象外となるのは、年間収入が100万円以下の場合と自然災害などで提出できない場合のみ。対象外のサービスは、居宅療養管理指導、介護予防支援、養護老人ホーム、総合事業である。指定後1年未満のみなし指定事業所も対象外とされた。


提出された経営データが、そのままの状態で公表される心配はない。国が属性ごとにとりまとめ、グルーピングした分析結果を公表する。個々の事業所の収支や給与が外部の目に触れることはない。


提出は原則として事業所・施設単位だが、事業所・施設ごとの会計区分を行っていないなどやむを得ない場合については、法人単位での提出も認められている。また提出は、介護サービス事業に係る事項のみを対象とすることが基本となる。

※ 制度の概要やポイントはこちらの記事で


※ 介護事業者が報告すべき経営情報の内容はこちらの記事で


※ 義務化の対象外となる事業所・施設はこちらの記事で


※「GビズIDアカウント」の概要はこちらの記事で

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問題は、厚生省令37号などに記載されている「会計の区分」との整合性である。会計の区分は運営基準であり、全ての介護事業者に義務付けられている。そのため、事業所・施設ごとの会計区分を行っていない場合は指導対象となる。


今回の提出義務化において、運営基準に沿った適切な会計の区分を行っていない場合の提出も認めるのであれば、会計の区分の義務化を努力義務へ変更すべきであろう。実際に自治体は、運営指導で会計の区分の未実施による基準違反の指導を行っているのだ。


次に、提出方法である。


経営情報の提出は、情報公表システムに内包される「介護事業財務情報データベースシステム(仮称)」によって行う。システムへのログインに際しては、「GビズIDアカウント」の事前取得が必要となる。実際の提出作業は、システムへの直接入力と、対応している会計ソフトによる電子データ提出の2つが可能とされている。


小規模が半数以上を占める介護事業者においては、会計事務所に依存して記帳代行で会計処理をしているところも多い。この場合、事業所・施設が直接入力するのか、会計事務所が申請代行するのか、もしくは会計事務所が利用している会計ソフトで電子データを提供するのか、などが選択肢となる。会計事務所の対応状況も今後、問われていくだろう。


今年度の提出時期は来年1月から3月とされた。この期間は確定申告の最盛期で、多くの会計事務所が提出の義務化に対応できない事態も想定される。早めに会計事務所と対応を協議することをお勧めする。

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経営情報の内容は、最低限、下記の大枠での提出となる。内訳を記載しての提出は努力義務である。この6つの大枠に、現在の財務諸表の勘定科目を分類・集計して提出することとなる。

1. 介護事業収益

2. 給与費

3. 業務委託費

4. 減価償却費

5. 水道光熱費

6. その他費用

今回の経営情報の提出で最低限求められるのは営業利益であり、経常利益は任意項目となっている。給与費、減価償却費、水道光熱費が単独の集計となっているのは、処遇改善、内部留保、物価高騰を念頭に置いてのことであろう。


もっとも、この大雑把な経営情報でどこまで信頼性の高いデータベースが構築できるのかは疑問である。特に、小規模事業者の特例によって彼らの経営データが参考値でしか集計されない懸念がある。


そうなると、現在の「介護事業経営実態調査」のように中規模・大規模中心の分析となり、実態からかけ離れた、より高い収支差率が公表されてしまうのではないか。今年度の介護報酬改定で起きた訪問介護の悲劇を繰り返してはならない。


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