【田中紘太】なぜ居宅ケアマネのターミナル加算は活用されないのか 現場の実情に応じた要件の設定を
今年度の介護報酬改定では、居宅介護支援の「ターミナルケアマネジメント加算(400単位/回)」の要件が変更されました。【田中紘太】
まずは変更のポイントです。以下に改めてまとめました。
2024年度介護報酬改定|ターミナルケアマネジメント加算
対象疾患を末期の悪性腫瘍に限定しないこととし、医師が一般に認められている医学的知見に基づき、回復の見込みがないと診断した利用者を対象とする。あわせて「特定事業所医療介護連携加算」について、ターミナルケアマネジメント加算の算定回数の要件を、年5回以上から年15回以上へ見直す。
算定要件
在宅で死亡した利用者に対して、終末期の医療やケアの方針に関する本人・家族の意向を把握したうえで、その死亡日、及び死亡日前14日以内に2日以上、本人・家族の同意を得て利用者宅を訪問し、心身の状況などを記録し、主治医、及び居宅サービス事業者に提供した場合に算定する。
このターミナルケアマネジメント加算は、従前から算定率が件数ベースで0.0%、事業所ベースで1.7%と極めて低い水準に留まっていました。それが大きな要因となり、特定事業所医療介護連携加算の算定率もやはり極めて低く、概ね97%の事業所は算定できていない状況です。
※ 2022年4月「介護給付費等実態統計」より引用
今年度の介護報酬改定の前から、末期癌のご利用者様以外でも在宅で看取りを行うことはありました。その場合、病名限定が要因となってターミナルケアマネジメント加算を算定できませんでしたから、これを解消した今回の見直しには一定の意義があると言えるでしょう。
ただ、多くの事業所がターミナルケアマネジメント加算を算定できない根本的な理由がもう1つあります。要件の「その死亡日、及び死亡日前14日以内に2日以上、本人・家族の同意を得て利用者宅を訪問し〜」がネックになっているんです。
◆ 医療系サービスとの違い
筆者も現場のケアマネジャーとして、この8月は3名の看取りの支援に携わりました。うち1名は病院でご逝去されました。2名は末期癌で、在宅で看取りを行いました。
2名とも1年以上担当させて頂き、診療所、訪問看護ステーション、薬局などの医療機関とも連携を重ね、これまで支援を続けてきました。ただ結果として、2名ともターミナルケアマネジメント加算は算定できませんでした。理由はやはり、要件の「その死亡日、及び死亡日前14日以内に2日以上、本人・家族の同意を得て利用者宅を訪問し〜」を満たせなかったためです。
この要件はもともと、訪問看護などの加算の要件に倣って設定された経緯があります。居宅介護支援の現場の実態とは必ずしもうまく合わないのではないか。そう懸念しています。
ケアマネジャーが在宅で看取りに関わる際は、病状の変化に応じてケアプランを頻回に変更するなど、その都度柔軟に対応していきます。ただ、いよいよ看取りの日が近づいてくると、ケアプランを変更する頻度は徐々に少なくなります。結果、訪問頻度も減っていくことが多いです。
反対に訪問診療、訪問看護、訪問薬局などの医療系サービスは、看取りの日が近づくと訪問頻度が増えます。家族・介助者からみると来客が多くなるので、ケアマネジャーは彼らの負担を考慮し、訪問を躊躇することも少なくないのが実情です。
このため、要件を満たすことが容易ではなくなります。やはり再考の余地があるのではないでしょうか。
◆ ハードルが高すぎる…
また、病名限定がなくなり末期癌以外のご利用者様も加算の対象となりましたが、実際には末期癌の方の看取りが多いのが実情です。非癌のご利用者様の看取り、ターミナルケアマネジメント加算の算定数は、そこまで大きく増えていません。このため、特定事業所医療介護連携加算の算定数の減少が心配されます。
特定事業所医療介護連携加算の従来の要件は、ターミナルケアマネジメント加算の年5回以上の算定でした。これは、看取りに力を入れれば何とかクリアできる範囲と言えます。
ただ、新たな年15回以上の要件はハードルが高すぎます。これでは算定を目指す事業所が少なくなり、ターミナルケアマネジメント加算だけでなく、退院・退所加算を算定するところまで減ってしまうのではないでしょうか。
当然、加算を算定していないからといって、在宅での看取りや退院・退所時の連携を軽視しているわけではありません。実働はしっかり行っているのですが、要件に沿う動きをすることが難しいというだけに他なりません。
加算名が「医療介護連携」「ターミナルケアマネジメント」「退院・退所」となっているため、これらの算定率が下がると、周囲の関係者の印象や評価が悪くなるのではないかと危惧しています。「ケアマネジャーは医療との連携や看取りの支援を怠っている」。そんな風に思われたら心外です。
国には是非、次の介護報酬改定に向けて議論を深めて頂きたい。今後、ターミナルケアマネジメント加算、特定事業所医療介護連携加算の要件が見直されることを切に願います。