【最重要】人材定着のカギは人間関係 雰囲気の良い介護現場の作り方=山口宰
かつて、介護現場の人手不足の原因とされていた「高い離職率」は、処遇改善の施策や事業者のみなさんの取り組みによって、全産業平均を下回るレベルにまで改善されました。
その大きな要因として指摘されているのが「人間関係の改善」。しかし、現場からは「どのように取り組めばよいかわからない」という声が聞こえてきます。
そこで今回は、「介護現場の人間関係」に対するアプローチについて考えてみたいと思います。【山口宰】
◆ 介護現場の離職率が改善
7月10日に発表された介護労働実態調査で、2023年度の介護職員の離職率が前年度より1.3ポイント低い13.1%となったことが明らかになりました。これは2007年度以降で最も低い数字であり、全産業平均の15.0%(雇用動向調査)も下回っています。
かつては、介護現場の人材不足の原因の1つとして「離職率の高さ」が指摘されていましたが、様々な処遇改善の施策や、各事業者の離職防止・定着率向上への取り組みによって、近年は大幅な改善傾向にありました。
今回の調査で「離職率が低下傾向にある」と答えた事業所が、その理由として最も多くあげているのが「職場の人間関係がよくなったため」(63.6%)。これまで、介護職の離職理由のトップは、長年、「職場の人間関係に問題があったため」が多くを占めており、「人間関係」の改善が介護現場の定着率向上のカギ、ということが改めて浮き彫りになったと言えるでしょう。
◆ 人間関係を改善するには
現場の管理職やリーダーのみなさんからは、「シフトや待遇は見直しができても、人間関係を改善することはできないのではないでしょうか」という声がよく聞かれます。しかし私は、「人間関係の改善」こそ、定着率向上のためにアプローチすべき重要なポイントだと考えています。
介護労働実態調査の中に、「職場での人間関係等の悩み、不満等」という設問があります。
この中で最も多かった回答は、「特に悩み、不安、不満等は感じていない」(36.3%)ですが、その他の回答で多かった項目としては、
◯ 自分に合わない上司や同僚がいる=19.3%
◯ 部下・後輩の指導が難しい=18.5%
◯ 経営層や管理職等の管理能力が低い、業務の指示が不明確、不十分である=17.7%
◯ ケアの方法等について意見交換が不十分である=16.5%
◯ 上司や同僚との仕事上の意思疎通がうまく行かない=13.6%
と続いています。ここに、人間関係改善のための大きなヒントが隠されているのではないでしょうか。
◆ 人間関係改善の5つのポイント
それでは、「介護現場の人間関係改善」のための具体的なアプローチについて、5つのポイントに整理して紹介していきましょう。
(1)コミュニケーションを改善する
シフト制で動いている介護現場では、メンバーが常に顔を合わせて仕事をしているわけではないので、どうしてもコミュニケーションが不足しがちです。フォーマル/インフォーマルなミーティングの設定や、1on1などの定期的な対話の機会の導入、各種コミュニケーションツールの活用などが有効です。また、ただ量を増やすだけではなく、「よい点を褒め合う」「感謝の言葉を伝える」といった前向きなコミュニケーションをとる文化を根付かせることも重要です。
(2)心理的安全性を高める
よい人間関係の中で安心して仕事をするためには、心理的安全性を高めることが重要です。心理的安全性とは、「チームのなかで、リスクや失敗を恐れず、誰に対しても自分の気持ちや考えを安心して発言することができる状態」です。単なる「仲良し集団」ではなく、ひとりひとりが自分の意見を他のメンバーに伝え、率直に議論ができる関係性を目指しましょう。
(3)役割と責任を明確化する
「◯◯さんに頼んだのにやってくれてない」「これは△△さんの仕事なのに・・・」。このようなちょっとした行き違いは、積み重なることで人間関係を悪化させてしまいます。メンバーそれぞれの役割や責任を明確化し、タスクの進捗状況を全員で把握できるようにしておくことが大切です。この時に重要なのは、リーダーが1人で決めてしまわないこと。みんなで話し合って合意形成を行いましょう。
(4)研修や教育の機会を導入する
チームのメンバーの知識や技術が向上すると、仕事に対する自信が生まれ、余裕が出てきます。ちょっとしたミスやトラブルに適切に対応したり、お互いに助け合ったりすることで、人間関係のトラブルを未然に防ぐことができるようになります。また、仕事の仕方を見直し、生産性を高めることで、仕事上のストレスを軽減することも可能です。
(5)チーム・ビルディング
メンバーの持っている能力や経験を最大限に生かし、目標を達成することができるチームを作り上げていく「チーム・ビルディング」は、チームの人間関係を円滑にするためにも有効な手法です。メンバーが目標やビジョンを共有し、仕事の進め方・考え方の違いを乗り越えれば、チームとして高いパフォーマンスを発揮することができます。「タックマンモデル」を参考に、目標に向かって前向きに成長できるチームを目指しましょう。
介護現場で定着率が向上すれば、ケアやサービスの質が高まり、持続可能なチームや組織を作ることが可能になります。みなさんもぜひ、「人間関係の改善」に取り組んでみてください。