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2024年8月7日

【結城康博】介護現場は“職員ファースト”の時代! 利用者のハラスメント対策を最優先に

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《 淑徳大学総合福祉学部 結城康博教授 》

介護労働安定センターが先月に公表した新たな調査結果で、介護サービスの利用者・家族による介護職に対するハラスメントの実態が浮き彫りになった。【結城康博】

今、介護事業者が最優先すべきことの1つはハラスメント対策ではないか。本稿ではその点を論じていきたい。


◆ 利用者ファーストから職員ファーストへ


私は社会福祉学者として、「利用者の尊厳」「権利擁護」「自己決定の原則」といった「利用者ファースト」が、福祉や介護の真髄だと十分に認識している。


しかし昨今、介護現場の人材不足が極めて深刻になってきている中で、単純な「利用者ファースト」だけでは事業継続が難しくなってきたと感じる。まず介護職を守る「職員ファースト」がなければ、事業者が生き残っていけない時代が到来しているのではないだろうか。


言うまでもなく、事業者にとって目下の最大の課題は人材の確保・定着だ。その成果につながるマネジメントができなければ、事業運営は遅かれ早かれ行き詰まってしまうだろう。


◆ ハラスメントの実態


下表からも分かるように、介護現場では利用者らによるハラスメントが横行している。特に暴言や暴力が目立ち、在宅では「介護保険以外のサービスを求められた」というケースも少なくない。

利用者らも自分が加害者だという認識はないのかもしれない。しかし、直に被害を受ける介護職にとっては心身共に多大な負担となる。貴重な人材の離職にもつながってしまいかねない問題だ。むしろ、利用者に加害者意識のないケースが最も厄介だと考えられる。


◆ 毅然とした対応が問われる


もちろん、多くの利用者はしっかりとマナーを守っており、介護職に感謝の気持ちを抱いているケースが大半であることは承知している。ハラスメントは全体からすれば少数だ。


しかし、介護労働安定センターの最新の調査結果は、現実に多くの介護職が被害を受けている実態を改めて明らかにしている。たとえ10人に1人、20人に1人でもハラスメントをする利用者がいれば、離職の引き金となってしまうことは否めない。


重要なのは事業者の姿勢だ。契約時にハラスメント行為を利用者へ説明し、契約解除の仕組みを明確に伝えなければならない。より毅然とした態度で臨むべきではないか。実際にハラスメントが生じた際は、もちろん難しいケースはあるが、淡々と契約解除を実行すべきである。


売上や稼働率などを考慮して介護職に泣き寝入りさせる、といったことはあってはならない。もはや時代は変わった。そうした事業者は介護職に見捨てられ、事業の存続がより難しくなるだろう。


「ハラスメントは許さない」という方針を明確に打ち出せば、介護職も組織としてしっかり対応してもらえるという安心感を持つ。信頼関係を構築でき、経営面でもプラスに働くはずだ。

◆ 職員ファーストは利用者にもプラス


一定の対応努力(ソーシャルワーク機能を含めて)や福祉の精神は非常に大切だ。ただ、悪質なハラスメントの加害者に対しては、介護サービスの提供を拒む時代が到来した。


繰り返すが、多くの利用者はしっかりした良識を持っている。しかし、一部の理不尽な利用者らの存在で介護現場の働く環境が悪化してしまえば、業界の不人気、イメージの悪さが加速してしまう。これは業界全体にとって大きなマイナスだ。


働く人が安心でき、やりがいや楽しさを感じられる環境を作っていけば、自ずとサービスの質は向上していく。必要な人材の確保にもつながる。「職員ファースト」はいわば、「利用者ファースト」の実現に向けたプロセスと捉えるべきである。


これらを明確に意識することが、今後の厳しい介護業界を生き残れる事業者の資質ではないか。何よりもまず人材を確保しなければ、介護事業は展開できない。もっと人が集まる業界にしていかなければ、結果的に多くの利用者へサービスを提供することはできなくなってしまう。


◆ 全ての高齢者には対応できない


当然、このような意見を論じれば、私が社会福祉学者として強い批判を受けることは承知している。


しかし、1人でも多くの高齢者の生活を守っていくことを優先して考えるのであれば、一部、悪質なハラスメントの加害者が置き去りにされても仕方がないのが現実ではないか。既に人材不足は深刻で、全ての利用者にサービスを提供できる時代ではない。


本来、このようなハラスメントを伴うケースは自治体の行政処分(措置制度)で対処すべき案件である。その意味でも、措置制度を介護業界で再構築していくべきであろう。


しかしそれには時間を要する。足元では一部、悪質なハラスメントによって介護サービスが受けられなくなる高齢者は、支援がきめ細かく行き届かなくても諦めるしかない。それが多くの高齢者を守るための厳しい現実ではないだろうか。


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