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2024年7月29日

【斉藤正行】最低賃金アップで厳しさを増す介護経営 官民一体の抜本的な改革が急務

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《 全国介護事業者連盟・斉藤正行理事長 》

◆ 倒産件数の更なる増も


今月24日、厚生労働省の審議会で今年度の最低賃金の目安を50円引き上げる方針がまとめられました。【斉藤正行】

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過去最大の上げ幅となりますが、介護現場にはどのような影響が及ぶのでしょうか。直近で示されているいくつかのデータも踏まえ、介護人材の確保に向けた状況整理とともに論考していきます。


物価高騰が長引く状況の中で、最低賃金を大幅に引き上げる方針には妥当性があります。介護職員にとっては、更なる処遇改善を期待することができるため、歓迎される施策と言えるでしょう。


一方で、人件費増による介護事業者の経営への影響は甚大であり、業界に大変大きな衝撃を与えています。


介護事業者は、無資格・未経験などの人材を雇用するにあたって、最低賃金をベースに給与規程を整備しているケースも少なくありません。最低賃金が上がれば、その最低ベースを引き上げる必要性が生じてきます。


ただし、最低賃金で働いている職員の給与だけを上げれば済むわけではありません。各社の規程のあり方次第ですが、資格や経験などに基づく給与規程を設けている場合、最低ベースの賃金が大幅に上昇すれば、その他職員の給与との逆転現象が生じかねません。結果的に、その他職員の給与も段階的に引き上げる必要性が出てきます。


今年度の報酬改定に伴う「処遇改善加算」の上増し分については、既に計画書を提出し、賃上げを行っている事業者が大半です。来年度の賃上げの原資として留保している事業者には、まだ対応する余地が残されていますが、その他の事業者の多くは、新たな給与規程の見直しに伴う人件費増で利益が圧迫されるでしょう。


今年の上半期は介護事業者の倒産件数が過去最多となりました。最低賃金の大幅な引き上げによって、倒産件数が更に増加していく事態も見込まれます。

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◆ 想像を絶する人手不足に


また、厚労省はこのほど、介護職員の必要人数の推計を新たに公表しました。2040年に約272万人が必要であり、直近データの2022年度は約215万人が従事していたため、約57万人が不足すると報告されています。毎年約3.2万人ずつ増やさなければならない規模で、介護職員の不足はいっそう深刻な問題となるでしょう。


介護現場では2022年度に、働き始める人の数を離職者の数が上回る事態(入職超過率のマイナス)が初めて生じました。今後、入職超過率に改善がみられなければ、必要な介護職員数が更に増加していくことも考えられます。


加えて、介護職の離職率が低下傾向にあることも指摘させて頂きます。2023年は13.1%で、全産業平均の15%を下回りました。離職率が下がっていることは歓迎される一方、その状況下で入職超過率がマイナスに転じたということは、新たに介護職として働き始める人の確保に大きな課題があることを意味します。


今後、2040年までに生産年齢人口は2割ほど減少していきます。近い将来、人材採用の厳しさが想像を絶する時期が訪れることになりそうです。


◆ 多様な就労機会の確保も重要


こうした状況の中で、介護職員を増やすために行うべきことはなんでしょうか。まずは継続して処遇改善策を講じていくことです。


介護業界は現在、他産業の賃上げの水準に追いついていません。今年度の報酬改定の処遇改善額は、来年度までの2年分として支給されているものです。政府は2026年度に向けて更なる処遇改善を検討する方針を示しており、臨時の報酬改定や追加措置の実現が期待されます。2027年度の報酬改定における更なる処遇改善も不可欠と言えるでしょう。


一方で、政府による対策だけにとどまらず、事業者による独自の処遇改善の取り組みも工夫しなければいけません。今後の重要テーマは、「多様な就労機会の確保」と「生産性の向上」です。


多様な就労機会の確保については、これまで活用してこなかった人材の活用が事業者に求められます。例えば、短時間労働者や障害をお持ちの方などが、介護現場で戦力として働ける環境を整える必要があるでしょう。そして、今後は外国人の活用が必要不可欠になると思います。


生産性の向上に向けては、業務分解をしっかりと行い、タスクシフトを適切に進めることが必要となります。ICT機器やロボット、AIの活用などDX化の推進により、想定より少ない職員数で対応できる環境を整えることも重要でしょう。政府にも制度のいっそうの柔軟化が求められます。


介護職員不足の対応については、官民一体で抜本的な取り組みを前に進めることが必要不可欠ではないでしょうか。


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