2024年7月9日

訪問介護の倒産急増、国の政策ミスでしかない 業界全体で「おかしい」と言おう=結城康博

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《 淑徳大学総合福祉学部 結城康博教授 》

今月4日、東京商工リサーチの新たな調査レポートが公表され、今年上半期の介護事業者の倒産が過去最悪の81件にのぼったことが分かった。そのうち訪問介護は40件で、これも過去最悪となっている。【結城康博】

誰もが深刻な事態になると予想していた。ただ、データとして示されると在宅介護の危機的状況が改めて鮮明に見える。


要因は明らかな政策ミスだ。このままでは、「制度あってサービスなし」の状況が全国で広がってしまうだろう。


◆ 基本報酬減が引き金に


今年度の介護報酬改定に触れないわけにはいかない。訪問介護の基本報酬の引き下げには、とにかく業界全体が驚愕した。


訪問介護の経営者は高齢化しており、後継者も見つからないなか事業継続に悩んでいるところが多い。そこで痛恨の一撃を受け、彼らの士気は明らかに低下した。先行きを悲観し、今後の展開を諦めてしまったところも少なくない。


訪問介護の経営者に話を聞くと、みな悲痛な面持ちを浮かべる。「国はヘルパーの意義・機能を評価せず見放した」。そんな声を耳にすることも珍しくない。

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地域に根ざして活動している事業所を中心として、既にヘルパーの高齢化はかなり進んでしまっている。事業を続けていけるかどうかは、もう少し若い世代を雇えるか否かにかかっていると言っていい。


国は処遇改善加算を拡充したという。ただ、基本報酬が下がれば事業所の収支は悪化する。他産業の賃上げが目覚ましく、リクルート活動に要する費用も以前より上がっているなか、周囲に負けない十分な施策を講じるのは容易ではない。


ガソリン代、事務経費、衛生用品の値段なども上がっており、物価高騰は終わりが見えない。「そろそろ潮時かな…」。そんな風に考えている経営者は少なくない。訪問介護の基本報酬の引き下げは、やはり完全な政策ミスだったのではないだろうか。

◆ 早急に臨時の報酬改定を


今後、訪問介護の経営は「集合住宅型」と「地域型」との格差がますます広がっていくと予想する。


「集合住宅型」は効率的な事業展開が可能だ。円安の影響もあって限定的となるものの、外国人の従事を認める規制緩和も追い風になるだろう。最大の課題の人材確保を有利に進めることが可能となる。


一方で、「地域型」は一段と苦しくなるのではないか。利用者が広範囲に居住しているため、効率的な事業展開は難しい。個々の高齢者宅で臨機応変の対応が求められるため、外国人を受け入れるハードルも相対的に高い。


今後、「地域型」の倒産、休廃業、解散は一段と増えていくに違いない。結果、集合住宅に入らない利用者、入る余裕のない利用者はサービスをより使いにくくなる。いわゆる「介護離職」も減らず、日本経済全体に負の影響をもたらしていく。


倒産件数の急増を受けて、一部の事業所が自然淘汰されているだけと捉える人もいるだろう。しかし、訪問介護は既にかなりの需要超過で供給増が急がれるサービスだ。


地域包括ケアシステムの理念を本当に実現させたいならば、せめて訪問介護の基本報酬を昨年度の水準へ戻すべきではないか。外国人活躍の土壌を作る「集合住宅型」の支援も必要だ。介護業界全体で大きな声をあげていこう。今回の基本報酬の引き下げはやっぱりおかしいと。


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