【小濱道博】新たな処遇改善加算で介護現場は大混乱 制度の更なる簡素化が不可欠!
◆ 不安に包まれる介護現場
6月から新たな「介護職員等処遇改善加算」がスタートした。3つの異なる加算を一本化して簡素化したことが売りである。【小濱道博】
これによって厚生労働省は、算定の更なる拡大を実現すると言う。確かに、最も低い算定率であった「特定処遇改善加算」の弊害、いわゆる「2分の1ルール」が撤廃されたことは大きい。
しかし、「年収440万円」ルールが残り、「月額8万円昇給ルール」は今年度限りで廃止される。職場環境等要件や月給改善額のルールも、来年度から激変する。
今年度の加算の一部を来年度に繰り越して支給する特例も、周知されているとは言い難い。これらの結果、現場サイドでは未だに混乱が収まっていないのだ。
現在、先行きの不安を抱えながら処遇改善加算に対応している事業者が多い。その対策で都道府県は「取得促進支援事業」を実施しており、私もその講師の依頼を受けることが増えている。
そこでは、制度解説セミナーに続いて相談会を開くことが多い。相談会には多くの参加者が残り、最後まで活発に質問を続ける。質問内容は、年収440万円の義務化、加算分の支給や昇給の方法、法定福利費の簡便的な算出方法などが中心だ。
ひとつの質問に答えると、さらに深掘りした質問が返ってくる。参加者からは、この機会に疑問点を解決しようという必死さが伝わってくる。
介護事業者は、決して処遇改善加算を算定したくないわけではない。算定後の運営指導などで返還指導となるリスクが弊害になっているのだ。ある参加者が、「なぜこんなにも複雑な仕組みにするのか?」と尋ねてきたことが物語っている。
◆ 小規模事業者が上位区分を算定できない実態
新たな処遇改善加算は、従来の処遇改善3加算がベースとなっている。
しかし、旧処遇改善加算の区分IIIの要件では新加算を算定できず、激変緩和措置の「区分V」で算定しなければならない。その「区分V」も今年度限りで終わるため、そのうちに要件を満たせなければ新加算は算定できない。そうなっても賃金水準を下げることはできず、自腹で加算分を支給し続けなければならない。これは、大きなリスクである。
年収440万円の義務化への対応も簡単ではない。従来の特定処遇改善加算の要件では、勤続10年以上の介護福祉士らの中から年収440万円以上の人を1名以上作るか、月給8万円の昇給かを選ぶことができた。しかし、新加算では今年度末で月給8万円昇給ルールが終了する。
これは、小規模事業所にとって非常に荷が重い話である。現場では、「小規模事業所は処遇改善加算を取らなくてよい、と国は考えているのか」という声も聞く。
そして、職場環境等要件である。新加算の区分I、またはIIを算定するためには、職場環境等要件の取り組みを区分ごとに2つ以上実施しなければならない(生産性向上の取り組みは3つ以上)。小規模事業者向けの特例もあるが、これは1法人で1事業所のみを運営するような法人規模でしか認められない。
◆ もっと現場の声を聞いて
新たな処遇改善加算は制度の簡素化とはほど遠いのが実情だ。今後、現場は更に混乱するであろう。実際、介護保険制度を所轄する自治体の担当者にも戸惑いが見える。
介護業界は圧倒的な人材不足に喘いでいる。今年上半期の倒産件数は過去最多を更新した。厚生労働省の担当官には、現場の声に耳を傾けることを切にお願いしたい。介護事業者サイドも、もっと現場の声を厚生労働省に届ける努力が大事なのだ。
介護保険制度は今後、誰が見ても分かるようによりシンプルに変えていかなければならない。