今年の年末に予定される改正介護保険法案の取りまとめに向けた議論は、厚生労働省の審議会でいよいよ具体的な方向性が示されていくタイミングが近づいています。
今回は、8月25日の会合で論点として示された「特別養護老人ホームの入所要件を要介護1以上へ見直す案」について、今後の議論の見通しやポイントについて考察したいと思います。【斉藤正行】
2015年の制度改正によって、特養は、「在宅での生活が困難な中重度の高齢者を支える施設としての機能に重点化すべきである」との考え方から、入所要件を原則、要介護3以上とされました。当時の審議会の議論では、関係団体や自治体からの反対意見や慎重論も多く、最終的には、要介護1と2であってもやむを得ない事情があれば、入所が認められる条件が附帯されることとなりました。
しかしながらその後、特養の入所待機者が減少に転じます。2014年には50万人を超えていたのが、住宅型有料老人ホームやホスピス形態の施設の急速な増加などを背景として、2019年には29.2万人となりました。
待機者は依然として多いものの、地方を中心に、高齢者人口が減少に転じている地域では、定員が埋まらずに空床が生じて経営の厳しい特養も増え始めています。そこで、入所要件の再度の見直しが議論されることとなりました。
私自身は、過度な規制は不要であるとの考え方でありますので、今回の議論は大いに賛成であります。要介護度で一律に、高齢者の状態像が軽度・中度・重度と明確な定義が必ずしもできているわけでもないことは、周知の通りであります。また、介護保険制度の根幹の考え方である、利用者による「サービスの自己選択の機会を増やす」うえでも、必要な措置であると思います。
具体的な議論の方向性は、11月開催の審議会において示されることになると思いますが、正直に申し上げて、他のテーマと比べると少し注目度が低いように感じます。関係団体の多くも、それほど強い賛成主張や動きが見られるわけではありません。
それでも、私は、今後の見通しを推察すると入所要件見直しの可能性は十分にあると思います。
それは、他の注目テーマである「軽度者改革」「利用者負担見直し」「ケアプラン有料化」などは、昨今の情勢を見ると大きな改革にはつながらない可能性が高く、改正点が少ない状況にあるからです。この特養の入所要件見直しについては、他のテーマと比べると反対者も少なく、比較的スムーズに認められる可能性があるのではないかと思います。
その上で、最後にこの問題をめぐり私が本質として必要だと考えるポイントについて、見解を述べさせてもらいたいと思います。それは、改めて、介護保険施設と居住系サービスのあるべき役割の整理・見直しをすべきではないか、ということです。
そもそもこの問題は、公の議論の場ではあまり語られませんが、低価格な住宅型有料老人ホームの開設が加速する中で、一部の特養が、入所者や職員の確保に苦慮していることから始まっています。
しかしながら、そうした単純な目先の数字に基づく議論ではなく、本来、特養に求められる役割が何であるのか、その他の居住系サービスとの違いをしっかりと示していくことこそが重要であります。
当然ながら特養には、他とは異なる開設・運営における補助・優遇措置があります。更には人員体制も、医師・看護師・生活相談員・栄養士・機能訓練指導員と、専門職種がオールスターで配置されています。本来、住宅型有料老人ホームとは比較にならない手厚いサービス体制が提供できる環境が用意されているわけですから、それらサービスとの競争による厳しさからルールの見直しが議論されることは、本質ではないと思います。
私は特養こそ、最高のサービスが提供できる施設形態であり、社会保障のセーフティーネットとして地域に不可欠な施設であると思っています。だからこそ、特養にも時代の変化とともに、創意工夫、経営努力、競争に打ち勝つ差別化が求められていると思います。
今後益々、自立支援・重度化防止が特養にも求められることとなります。自立支援を徹底している特養の中には、終の棲家たる特養でありながら、在宅復帰率を目標に掲げて、それを実現している施設も全国には数多存在しています。
もちろんそれが全てではありません。ターミナル機能にこそ特養の本来の強みがあるはずです。いずれにせよ、これからは、特養も地域性を踏まえた特徴づくりが必要でしょう。今回の制度改正の議論は、大きな変革の求められる時代へと移り変わる契機になるのではないかと思います。