【介護報酬改定】福祉用具の選択制、ケアマネはどう向き合うべきか 協会幹部が語る重要ポイントまとめ
今年度の介護報酬改定では、福祉用具の貸与と販売の選択制が新たに導入された。【Joint編集部】
スタートから2ヵ月半が経過したが、多くのケアマネジャーが今も日々の活動の中で試行錯誤を重ねている。どうすれば個々の利用者の最適な選択を下支えできるのだろうか − 。
「私も色々と試しながら、より良い運用のあり方を模索している」
こう話すのは、日本介護支援専門員協会の七種秀樹副会長。厚生労働省の検討会に委員として参画し、選択制の導入をめぐる議論に当初から関わってきた。そのプロセスでは、現場のケアマネジャーの負担が重くなり過ぎないように繰り返し働きかけてきた経緯がある。
七種副会長に選択制との正しい向き合い方を尋ねると、「あまり難しく考えないこと」という答えが返ってきた。新たなルールを理解・遵守する必要はあるものの、「利用者の自己決定を支援するという仕事の本質は全く変わらない」という。
まず、選択制の概要を簡単に振り返る。そのうえで、七種副会長が語った制度の捉え方、運用のポイントを紹介していく。
◆ 求められるきめ細かい情報提供
ケアマネジャーからみた場合、選択制の対象となる福祉用具(*)をケアプランに位置付ける際に最も意識すべきことは、貸与か販売かを利用者ができるだけ的確に選択できるようにすることだ。常に完璧な提案をし続けることは困難かもしれないが、誤った判断に導くような関わり方は避けなければならない。
* 選択制の対象となるのは、固定用スロープ、歩行器、単点杖、多点杖。
厚労省の通知などで示された居宅介護支援の規定を以下にまとめた。貸与か販売か、それぞれの長所・短所を丁寧に伝えることを前提として、利用者のアセスメント結果を考慮する、医師やリハ職らの意見を聴取する、サービス担当者会議などの結果を踏まえる、といった流れが想定されている。
居宅介護支援の運営基準の解釈通知|概要
◯ 貸与か販売かを利用者が選択できることやそれぞれのメリット・デメリットなど、利用者の選択に資する必要な情報を提供しなければならない。
◯ 対象福祉用具を提案する際は、利用者のアセスメント結果に加えて、医師やリハビリテーション専門職などからの意見聴取、退院・退所前カンファレンス、またはサービス担当者会議などの結果を踏まえる。
◯ 医師の所見を取得する具体的な方法は、主治医意見書による方法のほか、診療情報提供書、または医師から所見を聴取する方法が考えられる。
厚労省は介護報酬改定のQ&Aで、こうした規定に明記した「利用者の選択に資する必要な情報」の内容を、より詳しく解説している。以下の通りだ。
介護報酬改定のQ&A(Vol.1)|概要
利用者の選択に資する必要な情報としては、
◯ 利用者の身体状況の変化の見通しに関する、医師やリハ職などから聴取した意見
◯ サービス担当者会議などでの多職種による協議の結果を踏まえた、生活環境などの変化や福祉用具の利用期間に関する見通し
◯ 貸与と販売、それぞれの利用者負担額の違い
◯ 長期利用が見込まれる場合は、販売の方が利用者負担額を抑えられること
◯ 短期利用が見込まれる場合は、適時適切な福祉用具に交換できる貸与が適すること
◯ 国が示している福祉用具の平均的な利用月数
などが考えられる。
貸与か販売かを選択した後のモニタリングやメンテナンスなどについても、同様に様々なルールが設けられている。ただ、このフェーズはどちらかというと福祉用具事業所の出番が多い。
例えば貸与を選択した場合。利用開始から少なくとも6ヵ月以内に一度、福祉用具専門相談員がモニタリングを行って貸与継続の必要性を検討する決まりとされた。こうした制度を踏まえ、ケアマネジャーにも適切に連携していくことが求められている。
◆「使命は全く変わらない」
「介護支援専門員の専門性を発揮できる余地が更に広がった」
日本介護支援専門員協会の七種副会長はこう話す。選択制をうまく機能させるためにはどんなことに留意すればいいのか、詳しく話を伺った。
−− 4月から新たに導入された選択制ですが、運用の際に最も意識すべきことはなんですか?
やはり1番は利用者さんの権利、選択を守るということでしょう。それを更に推進するために導入された制度だと捉えています。
ですから介護支援専門員にも、貸与と販売のメリット・デメリットの両方をしっかりと伝える、ケアチームの専門的な見解や金銭面の見通しなども共有する、といった支援が求められます。こうしたルールは、利用者さんと話し合いながらより良いサービスを提供していこう、という趣旨で設計されました。この趣旨こそが、最も意識すべきことではないでしょうか。
−− 選択制の導入で、ケアマネジャーの仕事はどう変わるのでしょうか?
根本はこれまでと同じです。むしろ、私達の使命は全く変わらない、揺るがないと捉えて頂きたいと思っています。難しく考える必要はありません。
選択制の導入により、利用者さんは文字通り選択の機会・幅が更に広がりました。そして、利用者さんの自己決定を支えることは介護支援専門員の基本の1つです。どんな選択が利用者さんにとって最も良いのか − 。この観点からきめ細かい支援をしていくという当然の責務を、今後も愚直に全うすることが重要だと考えています。
◆「介護職の意見も重要」
−− ケアマネジャーの業務負担が増大する、という懸念の声もあがっています。
業務負担の問題は極めて重要です。厚労省の検討会でも、我々は当初から過大にならないよう繰り返し強く訴えてきました。その結果、適切なサービスを担保するための最小限の範囲に留められたと思っています。
確かに変わることもあるでしょう。利用者さんの選択を下支えする情報の収集・整理、コミュニケーションなどの負担が、少し増える日も出てくるかもしれません。
ただ、これらは多くの介護支援専門員が既に実践してきたことでもあります。従来から利用者さんの判断材料を幅広く集めてきた人、地域のネットワーク作りに努めてきた人などにとっては、さほど大きな変化は生じないのではないでしょうか。日頃からより良い仕事をしてきていたか、という積み重ねが今まさに問われているのかもしれません。
もちろん、事業者には業務の効率化などで現場の職員の疲弊を防ぐ努力が求められます。サービスの質を高めながら介護支援専門員をどう激務から守るか − 。これは業界全体が直面している大きな課題と言えるでしょう。
−− 利用者さんの最適な選択を支えるために、どんなことを伝えれば良いのでしょうか?
国がQ&Aで示した項目は、最低限の情報として共有しなければいけません。重要なのは、それだけで終わらせないことではないでしょうか。
例えば福祉用具だけのケアプランの場合。利用者さんが販売を選べば、介護支援専門員の支援は差し当たり受けられなくなります。自分が継続的に関与することが相手のメリットになると思えば、そのこともしっかり伝えなければいけません。
また、医師やリハビリテーション専門職だけでなく、ぜひホームヘルパーなど介護職の意見にも耳を傾けて頂きたい。福祉用具の使い方が荒っぽいとか、無理な動きが生じてしまっているとか、普段の生活のことを最もよく知っている存在だからです。介護職の意見を注意深く聞くことで、より精度の高い提案ができるようになるはずです。
利用者さんに伝えるべき情報は他にも沢山あるでしょう。様々な判断材料を集めてくるのが介護支援専門員の役割ですので、私も創意工夫を発揮していきたいと思っています。
◆「存在価値を更に示すチャンス」
−− 現場のケアマネジャーへ呼びかけたいことはありますか?
選択制の導入で業務負担が増える場面もあるかもしれません。貸与か販売か、判断がなかなか難しいケースも出てくることでしょう。ただ同時に、介護支援専門員の専門性を発揮できるチャンスは更に広がりました。
様々な関係者と調整しながら多角的に検討し、利用者さんにとって本当に良いサービスが提供されるように支援していく − 。そうした専門職としての存在価値を、しっかりと打ち出す良い機会にできればと考えています。
皆様にはこれまで蓄積してきた経験やノウハウがあります。ぜひ自分の目を信じて頂きたい。個々の介護支援専門員がプロフェッショナルとして、様々なシーンで利用者に寄り添った質の高い提案をしていくことが重要です。それが地域の要請に応え、社会的な評価を高めていくことにつながるのではないでしょうか。