新年度の介護報酬改定をめぐり、厚生労働省は昨年度末に解釈通知やQ&Aを新たに公表しました。【田中紘太】
今回は福祉用具貸与・販売の選択制の導入について述べたいと思います。これは基本的に福祉用具の制度改正ですが、居宅介護支援の運営ルールの見直しもあるので注意が必要です。
まずは解釈通知ですが、こちらのP14からP15に記載されています。改正点を極めて簡単に要約すると、次のようになります。
◯ 選択制の対象福祉用具をケアプランに位置付ける場合は、福祉用具の適時適切な利用、利用者の安全を確保する観点から、貸与か販売のいずれかを利用者が選択できることやそれぞれのメリット・デメリットなど、利用者の選択に資する必要な情報を提供しなければならない。
◯ 対象福祉用具を提案する際、利用者の心身状況の確認にあたっては、利用者のアセスメントの結果に加え、医師やリハビリテーション専門職などからの意見聴取、退院・退所前カンファレンス、またはサービス担当者会議などの結果を踏まえることとする。
◯ 医師の所見を取得する具体的な方法は、主治医意見書による方法のほか、診療情報提供書、または医師から所見を聴取する方法が考えられる。
※ 読みやすさの観点から一部Joint編集部が編集
特に大切になるのが、選択制の対象品目をケアプランに位置付けた場合の取り扱いです。貸与か販売かを選択できることやそれぞれのメリット・デメリットを、利用者へ丁寧に伝えなければいけません。
対象品目の提案は、アセスメント結果を踏まえる、医師やリハ職から意見を聴取する、サービス担当者会議などの結果を踏まえる、といった流れになります。
こうした流れをみると、一見、福祉用具貸与・販売をケアプランに位置付ける際の通常のケアマネジメントプロセスと変わりないように思えます。
特徴的なポイントはやはり、医師やリハ職からの意見聴取、医師からの所見の取得でしょう。こちらも主治医意見書の取得であれば、認定情報開示請求を行っていることがほとんどだと思いますので、業務負担が過度になることはないと考えられます。
情報開示請求を行って主治医意見書を確認することが難しい場合は、要介護1以下の方へ特殊寝台などを貸与する際の例外給付の流れに近いかと思います。
利用者のメリット・デメリットについては、改定のQ&Aに参考になる情報が記載されています。
問101|福祉用具専門相談員、介護支援専門員が提供する利用者の選択にあたって必要な情報とはどういったものが考えられるか。
答|利用者の選択にあたって必要な情報としては、
◯ 利用者の身体状況の変化の見通しに関する医師やリハ職らから聴取した意見
◯ サービス担当者会議などでの多職種による協議の結果を踏まえた生活環境などの変化や福祉用具の利用期間に関する見通し
◯ 貸与と販売、それぞれの利用者負担額の違い
◯ 長期利用が見込まれる場合は販売の方が利用者負担額を抑えられること
◯ 短期利用が見込まれる場合は適時適切な福祉用具に交換できる貸与が適すること
◯ 国が示している福祉用具の平均的な利用月数
などが考えられる。
※ 読みやすさの観点から一部Joint編集部が編集
また、以下のQ&Aにも注意が必要です。購入を選んだ後のメンテナンスが自費になることが記載されています。
問104|選択制の対象種目の販売後のメンテナンスなどに係る費用は利用者が負担するのか。
答|販売後のメンテナンスなどにかかる費用の取り扱いについては、利用者と事業所の個別契約に基づいて決定されるものと考えている。
※ 読みやすさの観点から一部Joint編集部が編集
福祉用具貸与であれば、メンテナンス費用、返品、交換必要は介護報酬に含まれる形になりますが、購入を選んだ場合はメンテナンス、修理などが自費契約となります。金額は事業者によって異なると思いますが、訪問する費用を勘案すると最低でも5千円から1万円はかかってくるでしょう。販売したものとは別に貸与されている品目もある場合は、結局、貸与事業所がサービスとして無料で対応せざるを得ない状況も生じるかもしれません。
また、破棄する場合の取り扱いにも注意が必要です。貸与なら引き下げを依頼することができますが、購入の場合は廃棄処分となります。誰がどのように廃棄するのか、家庭ゴミで廃棄できるのか、処分費用がかかるのか − 。こうしたことを事前に確認することも必要になるでしょう。
新年度から選択制の対象品目の場合、上記のようなケアマネジメントプロセスを実施する必要があります。ただ、それ以外の品目では同じ対応は求められません。重要なのは利用する品目によって、ケアマネジメントプロセスを分ける必要があるということです。
選択制の対象品目を改めて紹介すると、
◯ 固定用スロープ:敷居などの小さな段差を解消するために使用され、頻繁な持ち運びを必要としないもの。
◯ 歩行器(歩行車を除く): 脚部が全て杖先ゴムなどの形状をしている固定式、または交互式の歩行器。車輪やキャスターが付いている歩行車は対象外。
◯ 単点杖(松葉づえを除く): 1本の杖で歩行をサポートするもの。
◯ 多点杖:複数の杖先を持つ杖で、安定性を高めて歩行を支援するもの。
となっています。具体的な商品名でないとイメージが浮かびにくいかもしれません。
例えば歩行器であればピックアップ歩行器、単点杖であればロフストランドクラッチなどがあげられるでしょう。4月以降は貸与事業者のカタログなどに、選択制の対象品目か従前通りの貸与品目かなど、一定のすみ分けがされるかと考えられます。
今回のQ&Aには次のような記載もあります。
問98|特定福祉用具販売の種目は、どのような場合に再支給、または複数個支給できるのか。
答|福祉用具購入費の支給が必要と認める場合については、介護保険法の施行規則で、「購入した福祉用具が破損した場合、利用者の介護の必要度が著しく高くなった場合、その他特別の事情がある場合であって、市町村が福祉用具購入費の支給が必要と認めるときは、この限りでない」とされており、「その他特別な事情」とは、利用者の身体状況や生活環境などから必要と認められる場合の再支給のほか、ロフストランドクラッチやスロープのような種目の性質などから複数個の利用が想定される場合も含まれる。
※ 読みやすさの観点から一部Joint編集部が編集
従前、シャワーチェアやポータブルトイレなどの購入品目の再購入は、5年から6年ほど使用した後の経年劣化以外では認められてきませんでした。
杖や歩行器などの歩行補助具についても、同様に経年劣化以外では認められないのか。上記の答えでは、保険者が必要と判断した場合のみ再購入が認められるとなっているため、ここにローカルルールが発生することが想定されます。
更に、一度購入した品目を貸与へ戻すことなども言及されていません。品目が増えても年間10万円の購入上限が変わっていない点も含め、注意が必要と言えるでしょう。
また、以下のQ&Aにもいくつか留意点があります。
問102|担当する介護支援専門員がいない利用者から貸与事業所、または販売事業所に選択制の対象品目の利用について相談があった場合、どのような対応が考えられるのか。
答|相談を受けた貸与事業所、または販売事業所は、貸与と販売を選択できることを利用者に説明したうえで、利用者の選択に必要な情報を収集するために、地域包括支援センターなどと連携を図り対応することなどが考えられる。
※ 読みやすさの観点から一部Joint編集部が編集
居宅介護支援事業所の新規利用者の紹介元は、地域包括支援センターのほか、入院病院も多いかと思います。地域包括支援センターは介護予防支援を提供しているので、選択制の導入については当然周知されているでしょう。一方で医療機関では、介護報酬改定の細かい内容まで周知が行き届いていないかもしれません。
入院中に要介護認定を受けて退院される際に、居宅介護支援のケアマネジャーが必要と相談を受けるケースも多く、退院前カンファレンスなどに参加する機会も多いかと思います。病院からの申し送りがあり、実際にアセスメントを行った際に選択制品目のみの利用となることもあるでしょう。仮に選択制品目で購入を選ばれれば、給付管理が発生しないため、ケアマネジャーの報酬も発生しない形となります。
また、要介護認定を受けているケースであれば、地域包括支援センターの職員が居宅のケアマネジャーの代わりに退院前カンファレンスに参加することは少ないと思われます。上記のQ&Aには、「地域包括支援センターなどと連携」と記載されていますが、実際にはケアマネジャーが一時スクリーニングを行うケースも少なくないと考えられます。
今月から運用が始まるため、今後、ここで紹介したこと以外にも様々な不具合が生じる可能性があります。3年ごとの介護報酬改定の際はいつも混乱が生じますが、これまでは現場がなんとか順応してきた経緯があります。
今回もそうなっていくよう、引き続き現場での運用方法に注目していく必要があるでしょう。解釈通知やQ&Aには選択制のルールが多く記されていますので、皆さんも是非じっくり目を通して頂ければ幸いです。