今夏の参院選が終わりました。選挙結果を踏まえた介護業界への影響と総括について、私の見解を述べたいと思います。【斉藤正行】
結果は皆さんご承知の通り、自民党が改選議席で過半数を得るなど大幅に議席を増やし、日本維新の会やれいわ新選組を除き、野党全体では大きく議席を減らすとともに、諸派が議席を増やす結果となりました。
注目すべきは、各業界の”力のバロメーター”とも言われる比例区の結果です。
日本医師連盟、日本歯科医師連盟、日本看護連盟、日本薬剤師連盟などの医療関係団体の推薦する組織内候補者は当選を果たし、全国介護福祉連盟が推薦し、介護関係団体の多くが協力を行った候補者は当選できませんでした。改めて、医療業界の政治力の底堅さが示され、介護業界の政治への関わりの弱さがあらわになった結果であると言えます。
この結果を踏まえて、これから2024年度の介護保険制度改正の内容が年内中に取りまとめられ、年明けより次期介護報酬改定に向けた議論が本格化していきますが、こうしたプロセスでは、介護関係団体の組織内候補者が不在の状態で国会審議が行われることとなります。更には、政府や自民党内でも選挙結果に対する分析を経て、上述したことと同様の受け止め方がされることは想像に難くありません。
そういった意味では、次期報酬改定は厳しい論調で、給付抑制の議論が行われることになると思います。
加えて、今後の議論の中で注視していくべきは、処遇改善に関する議論のゆくえです。
本年2月より「介護職員処遇改善支援補助金」が創設され、10月より「介護職員等ベースアップ等支援加算」として報酬に組み込まれることとなります。岸田総理は、更なる処遇改善の検討を進める方針を示しており、次期報酬改定で処遇改善関連加算が更にプラスされる可能性もあるでしょう。
これは有り難いことである半面、その際には基本報酬やその他加算がマイナスとなる可能性が高くなるため、処遇改善関連加算の議論のゆくえが事業者にとっては大きな影響を及ぼすこととなります。
ただし、今回の選挙結果を受けて、次期報酬改定はマイナス改定が前提であるかのような論調も見聞きしますが、私はその見解には異論があります。もちろん厳しい予測は以前より行われていたことであり、マイナス改定の可能性は秘めていますが、議論は来年以降の政治情勢などを踏まえた上で決定されることであり、今はまだ見通しを立てるには早い段階です。
そして、今回の選挙結果では上述した通り、介護業界の政治力への課題が浮き彫りとなりましたが、こと報酬改定に関する意思決定プロセスでは、見直し項目や各種加算について介護給付費分科会を中心に議論されます。ここでは、厚生労働省と関係団体との意見交換・調整によって具体策が決定されていくので、政治が関与するケースは極めて限定的であります。
また、全体の改定率が政治決断によって決定されることは間違いありませんが、最後は内閣総理大臣、財務大臣、厚生労働大臣など限られた政権中枢メンバーによる決断であり、今回の選挙結果による報酬改定への影響は、やはり限定的ではないかと推察しています。
更には、次期報酬改定は、診療報酬・介護報酬の同時改定であり、改定率は例年通り、まず診療報酬の改定率が決定され、その数字に準じた介護報酬の改定率となる可能性が高いでしょう。今回の選挙によって医療業界が改めて政治に対する強い影響力を示した結果が、介護報酬改定にもプラスの影響を及ぼすことになると思います。
だからといって、手放しで安心できるわけでは決してありません。中長期的には社会保障改革への動きは待ったなしであり、介護業界が政治力を示すことができなかったことで、医療業界の主導で改革が進められる構図に変わりはないことから、介護業界にとって大きな課題が残されたことは間違いありません。
介護・障害福祉の現場で働く従事者は約300万人であり、医師の10倍の人数です。この300万人が政治への関心を高め、現場の声を、制度改革に届ける活動は不可欠であります。
私は、介護現場の従事者が政治的に無関心なわけでは決して無いと信じています。今回の選挙結果でも、比例区における介護関係団体の推薦候補者は9万を超える得票数であり、少なくともこれだけ多くの方が必要性を感じていたわけです。残る従事者達には、まだまだ経験や機会が不足していただけであり、丁寧な説明を行えば、これから大いに期待できるのではないでしょうか。
業界の代表者達が諦めることなく、強いリーダーシップをもって啓蒙活動を続けることが重要であると思います。