【介護報酬改定】新たな処遇改善加算、来年度だけ申請書類がより複雑に 一時的な負担増に備えよう=斉藤正行
来年度の介護報酬改定の内容が全て決定しました。
今回の1番のテーマは処遇改善です。全体改定率1.59%のうち、大部分の0.98%が処遇改善に配分されるとともに、処遇改善関連加算が一本化されました。「賃上げ改定」とも言える今回の報酬改定を含め、介護従事者の処遇改善に向けた取り組みを改めて整理してお伝え致します。【斉藤正行】
◆ 補助金・加算と順次対応を
介護職員の所得水準が他産業と比べて低いことは周知の通りです。最新のデータ(2022年)では、全産業平均と介護職員の所得差は月額6万8千円。10年前の9万5千円からは改善されているものの、未だ大きな開きがあります。
今般の物価高騰を受けて、他産業では更なる賃上げが実現されており、今後更に開きが大きくなりかねない状況です。これを踏まえた処遇改善加算の大幅な積み増しは、来年度で2.5%、2025年度で2.0%の賃上げにつながる水準となります。
前述の通り、従来は「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ加算」の3種類となっていた関連加算は、新たに「介護職員等処遇改善加算」へ一本化されることとなりました。
従来は、異なる仕組みの3種類の加算であったため、計画書や実績報告書などの作成に膨大な時間を費やしていましたが、今後は大幅な削減が期待されます。事務負担の軽減に伴い、加算の算定率向上も期待されます。新しい加算では、介護職員以外の職種への柔軟な分配が認められるとともに、加算額の一定割合を月額賃金の改善に充当するルールなどが設けられました。
また、報酬改定による措置とは別に、今年2月から5月までの4ヵ月間、「介護職員処遇改善支援補助金」が支給されます。こちらは昨年末、追加経済対策の一環として実施が決まった措置であり、介護職員1人あたり月額6000円程度の改善額が補助金として支給されます。
補助金の支給が5月までとなり、新しい処遇改善加算は6月からの施行となります。事業者は2月からの補助金、4月からの各サービスの改定、6月からの新しい処遇改善加算への対応を、順次行っていく必要があります。しっかりと準備しなければなりません。
◆ 重要な職員の不信感払拭
加えて、4月より「賃上げ促進税制」の改正が行われます。法人税対象の事業者は、ぜひ積極活用を検討すべきです。企業規模に応じて控除率が異なりますが、全従業員に実施した賃上げの金額から控除率を加味して、法人税が減免されることになります。
とりわけ、4月からの改正では、5年間の繰越控除制度が創設され、現時点で赤字の事業者にも適応の可能性が高まります。更に画期的なのは、処遇改善加算を活用した賃上げ分についても対象に加えられるため、6月から大幅に引き上げられる新しい加算を活用することが可能になる改正です。
これらの制度を積極的に活用し、職員への賃上げを確実に実施していくことが欠かせません。加えて大切なことは、職員に対する丁寧な説明です。
これまで処遇改善加算の仕組みが複雑だったため、職員へどのように分配したかを正しく伝えることが困難でした。そのため、多くの職員は、処遇改善加算の分配について法人に不信感を抱いています。
加算額の全てが職員に配られていないのではないか? 別の使われ方をしているのではないか? 理事・役員の所得に回っているのではないか?
全国各地の多数の職員から、このような疑問の声があがっています。今回の新しい処遇改善加算はシンプルになるため、職員にとっても分かり易くなります。丁寧に分配方法を説明し、納得感ある対応を行っていくことが大切です。
◆ 積み残された課題
最後に、残された課題と今後の対応についてお伝えします。
先般、新しい処遇改善加算の来年度の申請様式などが公表されました。今回は大変残念なことに、大幅な簡素化ではなく、逆にこれまで以上に手間が生じる書式となりました。
その背景には、2月から開始されている「介護職員処遇改善支援補助金」の影響があります。前述の通り、5月まで予算が確保されているため、新しい加算のスタートは6月となりました。計画書や実績報告書は4月からの1年分で報告することになるため、今回の書式では、4月分と5月分は3種類の加算のまま従来の複雑な計算式が必要となり、加えて6月からの簡素化された書式の提出も必要となります。結果として、これまでより負担が増えることになってしまいました。
更に、今回の新しい処遇改善加算は来年度から2年分が支給されるという建付けであり、翌年に繰越し可能なルールも取り入れられたことで、より複雑な書式ができあがってしまいました。
事業者向けの解説手引きを作成するなど、国は少しでも理解を広げるための取り組みを行っています。来年4月からの書式は、3種類の加算部分の記載がなくなるので、大幅な簡素化の実現が期待されています。引き続き、書式の簡素化は当面の最大の課題の1つと言えるでしょう。
また、居宅介護支援でも処遇改善加算などを創設し、ケアマネジャーの成り手不足を解消することも今後の課題となります。介護職の給与水準はまだまだ他産業と大きな開きがあることから、より抜本的な対策が求められています。