【伊藤亜記】不当な身体拘束を防ぐために 職員や家族の立場でなく、本人の立場で考えよう
先日、サービス付き高齢者向け住宅の経営者の方からご相談があり、「夜間に入居者が徘徊し、他のお部屋に入ることもある。そのご家族にお話したら、鍵をかけて欲しいとのご要望があったため、今は鍵をかけています」といったお話を伺いました。【伊藤亜記】
これに対し私は、「それは身体拘束にあたります。ご家族には身体拘束にあたる旨をお話し、至急、改善して下さい」とアドバイスさせて頂きました。
経営者の方は、「ご家族のご意向だったのですが、それでも身体拘束にあたるんですね。すぐご家族と話します」と言われていましたが、身体拘束についての意識が十分でないと、ご家族のご依頼を前提にこのような行為に至るのか、と改めて危機感を感じました。
身体的拘束については、「身体拘束ゼロへの手引き」で次のように明記されています。来年度の介護報酬改定にも、こうした取り組みの徹底を現場に強く促す措置が盛り込まれました。
介護サービスの提供にあたっては、利用者、または他の利用者の生命・身体を保護するための緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束、その他利用者の行動を制限する行為を行ってはならない
◆「緊急やむを得ない場合」を満たす条件
(1)切迫性:利用者本人、または他の利用者の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高い
(2)非代替性:身体拘束、その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がない
(3)一時性:身体拘束、その他の行動制限が一時的である
今回のように、ご家族によっては「職員や他の入居者に迷惑をかけるといけないから」「骨折でもしてまた入院されると大変だから」という方もおられます。ただ、本来は「そのご高齢者にとって身体拘束を行った場合のリスク」を前提として考えるべきです。
私の父は12年前に肺腺癌を患い、足の骨にも癌が転移してしまいました。手術後、夜間にベッドから立ち上がるから危険だと、夜間のみ腰ベルトを装着されていました。父には同意しないよう説得しましたが、父は「看護師さんに迷惑をかけるから」と同意していました。
それから暫くして、父は治療への気力をなくして亡くなりました。私はとても後悔しています。
職員の都合、ご家族の都合だけで判断されてしまえば、高齢者の尊厳や心の痛みが無視されることになりかねません。たとえ近しい身内の方であっても、それは別人格として、ご本人の代弁や権利擁護を図ることが非常に大切です。こうした身体拘束廃止への理解と協力を得るため、ご家族らへの十分な説明も必要でしょう。
あわせて、介護施設・事業所の管理者、生活相談員、ケアマネジャー、ヘルパーら関係職種は、医師など医療従事者の意見も確認しながら、身体拘束に代わる方法がないのか、その方法を用いた場合のリスクはどんなものか、といった話し合いを持つようにすることが重要です。
日頃から、不当な身体拘束を行わないための工夫を施設や事業所で考える癖付けを、ぜひ行っていって下さい。