1月22日に社会保障審議会が答申し、大枠の内容がほぼ全て決まった来年度の介護報酬改定 − 。今回は介護施設について検証したい。【小濱道博】
基本報酬をみると、特別養護老人ホームは総じて2.8%程度のプラスとなっている。
しかし、介護老人保健施設は類型によって明暗が大きく分かれた。要介護3を例示すると、「在宅強化型」が4.2%のプラスであるのに対して、「その他型」はプラス0.86%、「基本型」はプラス0.85%と大きく差が開いた。「加算型」は「在宅復帰・在宅療養支援機能加算(Ⅰ)」を「基本型」に加えたものなので、同様の改定率だ。
昨年11月に公表された直近の「経営実態調査」の結果で、特養がマイナス1.0%、老健がマイナス1.1%だったことを考えると、1%に届かない改定率は非常に厳しい。特に「その他型」は、2025年度から多床室料が自己負担となるため、利用者負担が月8千円ほど増える。より安価な特養への入所者の移動が進むなど、稼働率の低下が懸念される。
「その他型」、「基本型」には以前から、長期滞在型の老健で病院と居宅の中間施設としての役割を果たしていない、という評価があった。これまで私自身も、こうした施設に少なくとも「加算型」まで引き上げるべきと事ある毎に説いてきた。
しかし、今回の介護報酬改定は私の想像の上をいった。「加算型」でももはや完全に不十分だ。
長期滞在型老健の経営モデルは破綻した − 。そう考えるべきだろう。
すぐには転換できないとしても、個々の法人が描く中長期ビジョンの中で、「加算型」を経て「強化型」、「超強化型」へ転換する道を早急に検討すべきだ。
重要なポイントは他にもある。今回の介護報酬改定では、老健の基本報酬ランクを決める在宅復帰・在宅療養支援指標のハードルが上げられた。入所前後訪問指導割合、退所前後訪問指導割合が最大で35%以上へ引き上げられ、支援相談員として社会福祉士を配置していない場合は、点数が2点減点される。
これにより、上位区分の基本報酬を算定することが以前より難しくなった。現在、ギリギリの点数で強化型、超強化型を算定している施設のランクダウンも想定される。要するに、国は老健の現状に満足していない。現場は更なるレベルアップを求められた、ということである。
◆ 生産性向上、待ったなしの課題
このほか、介護施設には特に新興感染症対策が多く盛り込まれた。新興感染症とは、新型コロナウイルスに続く新たなウイルスなどを指す。
新種のウイルスは、10年程度のサイクルで出現するという。10年前はSARS、20年前は新型インフルエンザといった具合だ。
今回のコロナ禍の教訓を踏まえて、次の未知なるウイルスへの準備を進めていくことが必要だ。今回の介護報酬改定でも、入所者の体調急変に備えて、24時間体制で相談、診察、入院できる医療機関との協力体制の構築、緊急対応の準備など、様々な施策が強化されている。
また、特養では、透析患者が施設へ入所できない問題の解決策として、透析患者の病院への送迎を評価する「特別通院送迎加算」も創設された。ドライバー不足などを原因として、頻繁な送迎を必要とする透析患者が介護施設や高齢者住宅に入居できず、在宅介護を余儀なくされるという現実がある。
今後、これは社会問題となるであろう。この加算が、どこまでこの社会問題を解消する手段になるかは疑問である。
このほか注目すべきは、生産性向上の取り組みを現場に促す施策が広範囲に盛り込まれたことだろう。
短期入所系、居住系、多機能系、施設系のサービスには、3年間の経過措置を設けたうえで、“生産性向上委員会”の設置が義務付けられた。同時に、テクノロジーの活用やICT化などに取り組み、その改善効果のデータ提出などを評価する「生産性向上推進体制加算」も創設された。
新たに一本化・拡充される「処遇改善加算」の「職場環境等要件」も、生産性向上の取り組みを重点的に評価する内容へと改められた。業務改善委員会の設置、職場の課題分析、いわゆる「5S活動」、業務マニュアルの作成、介護記録ソフト、見守りセンサーやインカムの導入、介護助手の活用といった取り組みが求められる。
介護施設の生産性向上の取り組みは、基本的に厚生労働省が提供しているガイドラインなどを参考に進められることになる。もはや介護施設では、業務改善やICT化を計画的に進めていくことが待った無しの課題となった。