要介護高齢者の“推し活”が熱い! 「支えられる人から支える人へ」 サッカー応援が生きがいや重度化防止に
プロサッカーチームの応援を通じて要介護の高齢者を元気にする「Be supporters!(Beサポ!)」が盛り上がっている。2020年12月から、健康食品・美容商品大手のサントリーウエルネスが展開している取り組みだ。いわゆる“推し活”に介護施設の入所者らを巻き込むと、生きがい作りや重度化防止などの効果が表れやすいという。【鈴木啓純】
この「Be supporters!」は、普段は何かと“支えられる人”になりがちな介護施設の高齢者に、サッカークラブのサポーターになることで“支える人”になってもらおうというもの。皆で協力して関連グッズを作ったり、観戦用のご飯(サポーター飯)を仕込んだりしながら、特定のチームや選手を継続的に応援していく。Jリーグの複数のチームが趣旨に賛同し協力している。
発起人は、認知症の状態にある人がホールスタッフを勤めるレストラン「注文をまちがえる料理店」を手掛けた小国士朗氏。親交のあったサントリーウエルネスの沖中直人社長が構想を聞き、「人生100年時代」の高齢者の健やかな暮らしを後押しする我々こそがこのプロジェクトを主導すべきではないか、という思いに至ったという。
◆「毎日を生き生きと過ごして欲しい」
「おばあちゃん、おじいちゃんにいつまでも元気でいてもらいたい」
こう話すのは、サントリーウエルネスで「Be supporters!」を担当する吉村茉佑子さん。大好きな祖母が体調を崩すのを見た経験から、高齢者福祉の分野に強い関心を持ったという。
大学院生時代には、認知症へのネガティブなイメージを払拭したい思いからアルツハイマーの研究に注力した。入社後、「Be supporters!」へのコミットは自ら沖中社長に直訴。要介護になっても毎日を生き生きと過ごして欲しいと考え、施設でテレビを見ながら応援する「ベーシック」のプログラムなどを開発した。また、敬老の日の特別企画として、選手・クラブに対する高齢者の直筆の応援メッセージを焼き付けた横断幕をスタジアムで掲げる、「人生の先輩からのエール」などの企画にも携わった。
◆「元気を取り戻すきっかけに」
富山県で特養や小多機などを運営する社会福祉法人・射水万葉会の天正寺サポートセンターは、「Be supporters!」に参画してJ3のカターレ富山を応援している。10日のテゲバジャーロ宮崎戦では、選手へのメッセージを書いた横断幕をスタジアムで掲げた。一部の利用者は現地へ行って選手の背中を押した。
天正寺サポートセンターで働く荒山浩子さんは、「新たな喜びですね。毎回、応援のたびに利用者も職員も元気を沢山いただいている」と話す。普段はあまり口を開かない利用者から、「頑張って」「元気を貰って感謝している」との声も聞けたという。
このほか、90歳代の寝たきりの利用者が自力で食事をとれるまで回復したケースもあったそうだ。荒山さんは、「想像以上に良い影響があった。選手のために何かを考えてあげたいという気持ちが、皆さんの元気を取り戻すきっかけになっている」と語った。
◆「自分のためより誰かのため」
今月には敬老の日の特別企画が実施された。全国各地の74施設に入所する高齢者1434人(2022年9月現在)から応援メッセージを集め、それを横断幕としてスタジアムに掲出。ユニフォームやグッズを身に着けた高齢者を、各チームのサポーターらがインスタグラム、ツイッターに投稿する「#サポーターになってみた」も行われた。
サントリーウエルネスの吉村さんは、「“自分のため”というとなかなかやる気が起こりにくいけど、“推している人を応援するため”となると全然モチベーションが違う。それが結果的に心身の健康にもつながっていく」と説明。「応援は高齢者自身の背中を押すことにもつながる。心が動けば体も動いていく」と強調した。