【斉藤正行】物価高騰は長期化も 介護の利用者負担引き上げは丁寧な検討を
改正介護保険法案(2024年度制度改正)の取りまとめに向けた議論が、厚生労働省の審議会(社会保障審議会・介護保険部会)の場でいよいよ本格化してまいりました。9月下旬からは「給付と負担について」議論が行われるスケジュールが示されています。【斉藤正行】
中でも注目テーマの1つとなるのが、「利用者の負担割合の見直しについて」です。
ご承知の通り、介護保険サービスの利用に際しては、利用者の自己負担は原則1割とされており、高齢者の所得に応じて2割の方、3割の方が一部に存在しています。残る費用は税金と介護保険料を原資とする介護報酬によって、事業者に支給される仕組みとなっています。
今後、益々、少子高齢化が加速していく人口動態においては、介護サービスを利用する要介護高齢者は増え続け、逆に、税金・保険料を負担する現役世代は減少していくことになるでしょう。その中で、介護保険制度を持続可能なものとしていくためには、給付と負担の見直しの議論を避けることはできません。
今年4月13日に開催された財務省の審議会(財政制度等審議会・財政制度分科会)の場においても、利用者負担の見直しを求める提言が行われています。財務省は具体的に、「利用者負担を原則2割とすること」もしくは「2割負担、3割負担の対象範囲の拡大を図る区分基準の見直し」を求めています。
今後の議論の見通しですが、流石に一足飛びに原則2割負担の議論となる可能性は低いと思います。ただ、2割負担・3割負担の対象範囲の拡大に向けた議論が進んでいく可能性は十分にあるでしょう。
現在、2割負担、3割負担の対象は個々の合計所得など経済状況に応じて決められています。2割負担は要介護(要支援)認定者の5%程度、3割負担は同4%程度にとどまり、90%以上の方は1割負担となっています。この合計所得などの区分基準を見直すかどうか、が今後の大きな論点となるでしょう。
3割負担は2018年8月より新たに導入された基準で、現役世代並みに所得のある人を対象として設定された区分です。この見直しにはその前提の考え方からの見直しが必要となるため、議論に時間を要することが想定されます。このため私は、まずは2割負担の基準の見直しが議論の焦点となるのではないかと推察しています。
どの程度の金額水準となるかによって影響範囲は異なりますが、仮に、2割負担の基準見直しが行われたと仮定すると、介護事業者、利用者への影響も大きなものとなっていきます。
当然のことながら、利用者の自己負担が2割になると、利用料金の支払いは2倍になります。これは、利用者にとって大変大きな変化だと言わざるを得ません。
在宅介護であればサービスの“利用控え”へとつながり、利用が必要でありながら適切な支援が受けられなくなる可能性があります。施設・居住系サービスであれば、家賃・食費などの総合的な金額の中で、費用負担の低いサービスへの選択へとつながる可能性があります。
介護事業者にとっても、在宅事業者であれば利用回数の減少による収入減が想定されます。施設・居住系の事業者にとっても、入居者獲得に制限が生じるなど影響は少なくありません。
今後の議論の過程においては、これら利用者への影響を最大限に考慮すべきです。とりわけ、現在、物価高騰によって様々な生活コストが高まっている状況であり、今後の物価高騰の長期化への見通しをしっかりと踏まえた上で、できるだけ丁寧な議論が必要であると思います。