厚生労働省は今後の介護保険制度の改正に向けて、福祉用具の貸与と販売を利用者が選べる「選択制」の導入を検討していく。【Joint編集部】
業界の関係者や学者らでつくる有識者会議を5日に開催。「選択制」の是非をめぐる検討を深めていく方針を盛り込んだ報告書をまとめた。
◆ 比較的廉価な福祉用具を想定
介護保険の福祉用具は、利用者の状態に応じて適切なものを適切な方法で使ってもらう観点から貸与が原則。販売は例外的な位置付けで、排泄や入浴に用いるなど貸与になじまない一部のものに限られている。「選択制」が実現すれば、こうした制度の基本的な考え方を変容させる大きな見直しとなりそうだ。
背景には高齢化に伴う利用者の増加や介護費の膨張がある。
福祉用具の販売は貸与と異なり、それが単独サービスであればケアマネジメントの費用がかからない。このため、販売のメニューを増やすよう財務省などが繰り返し注文していた経緯がある。厚労省は今回、「選択制」の導入をこれから検討していく目的として、利用者の自己決定権を更に広げていくことに加え、“制度の持続可能性の確保”を掲げた。
「選択制」の対象としては、歩行補助つえや固定用スロープなどを例示。「利用者の負担などを考慮すると、比較的廉価で、ある程度中長期の利用が見られる福祉用具が考えられるのではないか」との認識を示した。
厚労省はこのほか、今後のプロセスで留意すべき視点も報告書に記載している。サービスの質の担保や安全性の確保を図るため、
○ 利用者が販売を選択した場合も、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員によるモニタリング、メンテナンスを実施すべきではないか
○ 利用者やその家族がメリット・デメリットを理解したうえで選択し、最も適切な福祉用具が提供されるようにするため、各種専門職が連携することや医学的な意見を踏まえることが必要ではないか
○ 有効性・安全性の検証のため、販売の場合も一定の試用期間、または貸与期間を設定すべきではないか
などの案を俎上に載せていく意向を示した。
◆ 十分な検証などを求める声も
もっとも、「選択制」の導入には業界の関係者から少なからぬ慎重論が噴出している。これまでの議論では、
○「高齢者は状態変化が生じやすく貸与の方が良い。状態に合っていない福祉用具が提供されると悪化を招く」
○「利用者の状態や生活形態に合わなくなった場合、販売だと交換を促しても簡単に進まない。メンテナンスも困難」
○「購入だと最初に支払うべき額が大きく、利用控えも起こり得る。目先の財政のみならず、各家庭や社会全体に及ぼす影響も検証すべき」
といった指摘が出ており、この日の会合でも同様の声があがった。
厚労省は今後、社会保障審議会・介護保険部会などで「選択制」をめぐるより踏み込んだ検討を行う構え。老健局の担当者は、「詰めなければいけない論点がまだまだある。必要な調査・研究にも取り組まなければいけない。関係者の意見も丁寧に聞きながら(具体策を)しっかりと考えていきたい」と述べた。