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2023年8月4日

【高野龍昭】介護の人材難、外国人に過度な期待はできない 国内の処遇改善・生産性向上も推進を

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《 東洋大学 高野龍昭教授 》

1. 新たな検討会が始動


7月24日、厚生労働省は「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」の初会合を開催しました。この検討会は、「技能実習」や「特定技能」の介護固有の要件について検討を行うものです。【高野龍昭】

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検討会の議論は年内に取りまとめられる予定です。その結論は、2024年度の制度改正や関係法令の見直しにも直接的にコミットすることになるでしょう。


最大の課題はやはり人材の確保です。官民の関係者、とりわけ介護サービス事業者の間では、人手不足が著しい訪問介護など訪問系サービスへの外国人材の「門戸開放」を期待する声が大きいようです。


2.「門戸開放」の検討の方向性


実際、検討会の「検討事項」の1つ目として、技能実習生などの訪問系サービスへの従事を認めていない現行規制があげられました。


訪問系サービスについては、利用者と介護者が1対1で向き合う形が基本となるため、あくまで「実習生」という趣旨で従事している外国人材の参入が認められてこなかった経過があります。


また、そもそも日本国内に在住している人が訪問介護に従事する場合であっても、施設系サービスや通所系サービスでは求められていない資格(初任者研修修了など)が必須とされているなど、資質の担保が重視されてきたサービス種別だという経過もあります。


また、「検討事項」の2つ目には、設立後3年を経過している施設・事業所のみを技能実習生の受け入れ対象としている点をどう考えるか、ということが示されました。これは経営の安定性を勘案した規制です。


開設後の年数の浅い施設・事業所が、経営が軌道にのらないまま技能実習生を受け入れた場合、適切な指導体制をとることができないのではないか − 。こうした懸念があり、適切な技能移転を図る観点から、設立後3年以上経過したところのみを受け入れ対象としてきた経過があります。


さらに、「検討事項」の3つ目には、技能実習生などが就労開始から6ヵ月経たないと人員配置基準上の職員として算定されないルールをどう考えるか、ということがあげられました。


技能実習生などは介護の技術・知識が十分でないことや、日本語能力の問題が少なからず懸念されることなどから、就労後6ヵ月を経過して初めて基準上の「人員」として算定できる決まりとなってきた経過があります。

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3.検討の行方


前述の3点の検討は始まったばかりで、その行方をはっきりと見通すことはまだできません。


ただ、足元で介護人材確保の困難さがあるとともに、介護以外の分野でも労働力確保のために外国人材への期待が高まっている流れがあり、規制が緩和される方向となることは明らかでしょう。


おそらく、訪問系サービスでは段階的に技能実習生などの従事を認めていく方向になるでしょうし、施設・事業所の開設からの年数規制も緩和されることは間違いないと思います。人員配置基準の算定までの期間については、現行の取り扱いが日本国籍のある人や日本国内在住者と比べると不合理と思える側面もあるため、短縮(あるいは撤廃)されることになるのではないでしょうか。


そうなった場合、施設・事業所は外国人材の確保に今まで以上に積極的に取り組まなければならなくなるでしょう。何よりも技能実習生などの技術・知識の習得に向けた教育体制の充実、彼らが日本で暮らす生活そのものへの支援の充実も欠かせなくなります。処遇についても、これまで以上に配慮・拡充させる必要が生じるはずです。


4.「移民政策の議論なき外国人材確保」の課題


検討会で示された資料をみると、2022年度の介護サービス分野の有効求人倍率は、施設介護職員で3.79倍、訪問介護職で15.53倍となっています。


こうした人材難に対し、検討会で議論の対象となった技能実習・特定技能だけでなく、EPA(経済連携協定)や在留資格「介護」に期待する声が、とりわけ介護実践現場、経営者などから強くなっています。


しかし、外国人材をめぐる最近の一連の議論は、いずれにしてもその前提は、「海外への技術移転」といった国際貢献の域から抜け出しているわけではありませんし、量的・人的に受け入れの総量を増やすという議論はほとんどありません。この意味で、外国人材の受け入れ要件の緩和が進んだとしても、わが国の介護人材難に対する「決め手」となる施策にはなり得ません。


データを確認してみても、2021年度に介護保険制度分野で従事している介護職員数は全国で約215万人と報告されていますが、今回の検討会で示された現時点での介護分野の外国人在留者数は、4万4024人(EPA:3213人・在留資格「介護」:6284人・技能実習:1万5011人・特定技能:1万9516人)です。


これを単純に計算すると、介護職員に占める外国人材数はわずか2.1%に過ぎません。この比率を増やす、つまり外国人材・労働者をわが国のなかでもっと増やすという議論がなければ、人材難の解消にさほどの効果をあげるとは考えられません。


労働経済の分野などでは、わが国の多くの分野が外国人労働者に期待する一方、実際には「門戸開放」といった水準には程遠く、労働力不足に効果をあげていない状況を、「移民政策なき外国人労働者政策」と呼ぶこともあるようです。多様な外国人がわが国のなかで暮らしつつ働く場を得ることを促すような外国人政策に関する基本理念・基本法が示されない限り、労働力不足を小手先で調整しているに過ぎない、という指摘です。


つまり、「移民政策」の議論がない限り、介護分野での外国人材に対する数的な面での過度な期待はできないと言ってよいでしょう。


この意味で、人材難については、外国人材に期待するだけでなく、生産性向上や国内での従事者確保(処遇改善や離職防止など)を並行していく必要性があることを強調しておきたいと思います。


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