介護支援専門員の人材不足が顕在化している。全国的な有効求人倍率も、直近の今年5月で4.13倍まで上昇する厳しい状況だ。【結城康博】
私は、このままいくと2035年に団塊の世代が全て85歳を超えていく頃、“ケアマネジャー枯渇”という最悪の事態に陥りかねないと不安視している。今後、多くの介護従事者にケアマネジャーの業務に就いてもらうためには、思い切って資格の「更新制度」を撤廃すべきではないだろうか。
◆ 他の資格に更新制度はない
ケアマネ不足を解決する方策は多々あるが、優先して実施すべきはケアマネ資格特有の更新制度を撤廃し、有資格者がいつでも業務に就ける制度へ改めることだ。
介護従事者のケアマネ人気を低下させている大きな要因の1つに、定期的に課せられる更新研修の負担がある。私の元ゼミ生の介護従事者からも、次のような声をよく耳にする。
「学生時代は『いつかケアマネとして働きたい』と思っていましたが、先輩ケアマネの研修負担を見て受験を辞めました」
他の資格、例えば社会福祉士、介護福祉士、医師、看護師、保健師などに更新制度は存在しない。これらの国家資格に更新研修が必要なく、ケアマネにだけ必要な理由は一体なんだろうか? 更新研修が撤廃されれば現場の負担はかなり軽減されるはずだ。
◆ 子育て世代にもっと優しい仕組みに
しかも、更新制度は今の“女性活躍社会”にも逆行している。一度ケアマネの仕事を辞めると、しばらくして復帰したくとも更新研修を受けなければならないためだ。更新切れの有資格者が直ぐに復帰できない仕組みは、様々な事情を抱える働き手にとって厳しい。しかも多くの場合、更新研修の費用負担は自腹となる。
確かに実務トレーニングは必要かもしれない。しかし、多くの介護従事者から選ばれる魅力ある職種としていく視点も同様に重要だ。直ぐに業務に復帰できるようにすれば、仕事をして一定の給与を得ながらトレーニングすることができる。実際、他の国家資格はそうなっているものが多いのではないだろうか。
今後、子育てが落ち着いた母親など、30代後半から50代の「潜在ケアマネ」に復帰してもらわないと、人材確保はいよいよ難しくなる。周知のようにケアマネは女性の割合が高く、彼女らにとって優しい制度を考えなければいけない。もっと若い世代を取り込んでいくことも欠かせない。
ケアマネの平均年齢は50歳を超えた。介護保険制度が発足してまもなくケアマネとなり、これまで長く現場を支えてこられた皆さんが引退していけば、ケアマネ不足は一挙に深刻化する。早急に後継者の育成を考えていかなければならない。
◆ 質の担保はどうするのか?
もっとも、「更新制度が撤廃されるとケアマネの質の担保が危ぶまれる」といった意見もある。
確かに、定期的に研修を受講して専門職としての学びを得ることは重要だ。このため居宅介護支援費(介護報酬)に加算を設け、それを定期的に研修を受けるインセンティブとするのはどうだろうか。一定の研修を修了したケアマネが従事している事業所を評価し、事業所内・法人内での研修受講を働きかける案などが考えられる。
◆ 文科省の「英断」は素晴らしい!
昨年の通常国会での法改正により、教員免許の更新制度は撤廃されている。私は、このような政策変更に踏み切った文部科学省、そして国会の議決を高く評価したい。
昨今では教員志望者も減少傾向にある。「潜在教員」の活躍に期待する意味でも、更新制度の廃止はまさに英断であった。厚生労働省にも今後、文部科学省のようにケアマネの更新制度を撤廃する英断を期待したい。