【田中紘太】在宅介護の情報連携、効率化のカギはチャットツールにあり! 今後のケアマネの必須スキルに
2021年度の介護報酬改定で、高齢者のケアマネジメントを担う居宅介護支援では基本報酬の“逓減制の緩和”が実施された。その要件の1つにICTの導入が位置付けられており、現場には便利なツールを活用して業務を効率化することが期待されている。【田中紘太】
他の業界ではコロナ禍以前から、ICTの活用やリモートワークの推進などによる「働き方改革」が図られてきており、それがコロナ禍で一気に加速したように感じる。
一方、介護や医療の現場ではだいぶ様相が違う。以前から電話、FAX、紙、印鑑、郵送などを使った業務がメインだが、それがさほど変わらない旧態依然の事業所が少なからずある。
居宅介護支援、ケアマネジャーもこれに当てはまる。見方によってはその最たる例と言えるかもしれない。ケアプラン、サービス利用票などを紙で共有して余計な手間を増やしたり、FAXのやり取り、電話の連絡に長い時間を費やしたりする事業所も少なくないのが現状だ。
事業者やケアマネジャーのリテラシーが低い − 。それは確かに否めないが、日頃から付き合いの多い行政の姿勢も影響しているのではないか。そもそもICTの活用に慎重な立場をとっていて、必ずしもマストではない紙の書類の提出を求める自治体も少なくない。
確かに、2021年度改定以降は少し変わってきたようにも感じる。
運営指導や監査などで書類の電子的な提出・保存が認められるようになり、補助金の交付など行政主導のICT化も進められている。こうした流れを受けて事業者サイドも、昔ながらの業務プロセスを徐々に変えていくところが以前より増えたようだ。
とはいえ、2021年度改定から2年以上が経過した今もなお、まだまだ取り組みが普及・浸透したとは言い難い現状がある。
◆ 変えられない“当たり前の常識”
筆者も委員の1人として参画した国の調査・研究事業(老健事業)を紹介したい。
居宅介護支援の逓減制緩和の運用状況(昨年9月サービス提供分)をみると、「届出済み」と回答した事業所は16.35%だった。そのうち、「緩和適用あり」と答えた事業所は52.8%となっている。
これは何を示すデータなのか。逓減制緩和を保険者に届け出ている事業所は2割にも満たず、ICTなどを活用して40件以上を持っているケアマネジャーがいるのは更にその半分だけ、ということだ。要は、逓減制緩和に実際に取り組んでいるであろう事業所は全体の8%程度に過ぎない、ということを意味する。
もちろん、逓減制緩和を届け出ていなくてもICTをうまく使っている事業所はある。しかし、ICTの活用が不十分で業務プロセスを切り替えられていない事業所がほとんどであろうことは容易に想像がつく。従来通り電話、FAX、郵送などに依存しているところが非常に多いことは、業界の皆さんならよく知るところだろう。
原因はいくつかあると思われるが、真っ先に思いつくのは“当たり前の常識”を変えられないことだ。
介護業界には電話、FAX、紙などで業務を行うという共通認識があるため、新規相談、報告、連絡調整といった場面でそれらを使うことがスタンダードになっている。
そんななか「今後はチャットツールを使って下さい」と急に頼んでも、「本社から認められていない」「今まで使ったことがない」「かえって負担が増える」など、様々な理由で断られてしまう。チャットツールなどを使おうと試みる人も、否定的な反応を受け続けていくうちに諦めてしまうことが多い。
恐らく、プライベートではほとんどの人が既に自分のスマートフォンを持っており、LINEなどの便利なツールを当たり前のように使っているはずだ。それが業務になると突然、電話やFAX、郵送などのアナログツールに戻ってしまう。
このため、個人単位ではなく会社単位、事業所単位で環境の整備、管理体制、教育体制、フォローアップ体制などの構築を進めるべきと考える。日々の業務でも使って良い、むしろ積極的に活用していく必要がある、という認識へ切り替えていくことが重要ではないか。
◆ 様々なツールを使い分けよう
弊社では在籍する全てのケアマネジャーにスマートフォンとパソコンを支給し、「Chatwork(チャットワーク)」というチャットツール、コミュニケーションツールを使って情報共有を図っている。
会社全体の情報共有は全てグループチャット内で行う。事業所ごとのグループチャット、管理者だけのグループチャット、ご利用者様ごとのグループチャットなど様々なセクションを設け、電話、FAXなどの使用頻度をできるだけ減らしていく業務プロセスを整えている。もちろん、使い方がよく分からない職員へのレクチャー、フォローも行っている。
ケアマネジャーの業務は、個々のご利用者様の状況に合わせてきめ細かい支援を展開することが基本となるが、同時に介護サービス事業所、医療機関などチームを組む相手に合わせることも求められる。
このため、介護サービス事業所ができるだけストレスを感じないように業務を行い、そのケアのパフォーマンスを上げられるように配慮する必要がある。相手が電話、FAXを好んでいる場合は、それを受け止めて業務を行っていくことも必要だ。弊社にも電話、FAXをメインにしたままチームケアを実践している連携先がある。
そこで、ICTツールをうまく使ってくれない介護サービス事業所を責める様なことがあってはいけない。ICTツールを使って欲しいのはこちらの都合、という認識を持つ必要があるのではないか(もちろん政府の方針でもあるが…)。
チャットツールは現在、弊社が使っている「Chatwork」の他にも様々な種類が提供されており、どのツールにも一長一短があると感じる。例えば「Chatwork」の場合、事業者が国際規格の認証を受けていてセキュリティ面で安心できるほか、スマートフォンでも使いやすい、ITツールが苦手な人でも始めやすい、などの長所があると思う。
もっとも、実際に導入されているツールには事業所ごとの違いがある。
このため、連携する相手によってうまくツールを使い分けるのが現時点での正解だろう。介護・医療の業界は現在、電話、FAXからICTツールに徐々に切り替わっていく過渡期にあるため、ケアマネジャーはできるだけ多くのツールを使いこなす必要があるのではないか。
もちろん、いずれのICTツールを使用するにしても、情報漏洩を防止するために国のガイドラインなど(*)を遵守し、適切に運営していくべきことには留意が必要だ。ご利用者様へ丁寧に説明し、予め同意を頂くことも不可欠となる。
*「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」など
◆ ケアマネが情報連携の中心に
在宅介護は病院や介護施設などと違い、施設内のみの情報共有で業務を完結できる環境にはない。地域の様々な関係事業者と密接に連携しながら支援にあたる必要がある。
そのハブとなっているケアマネジャーは、情報をうまく集約する立場にある。各方面から頂いた情報を止めずに、周囲へ迅速に共有していくことが責務であることは言うまでもない。ICTツールなどを活かして自身の業務負担を軽減し、得られた情報を常にスムーズに共有できる環境を整えておくことは、これからのケアマネジャーに求められる必須のスキルだ。
自らがグループチャットの管理者となるなど、ケアマネジャーには情報連携の中心的な役割を担うことが期待される。その運用・管理の方法を習得し、場合によっては他の介護サービス事業所の方に教えるスキルも求められるだろう。
介護サービス事業所は他の事業者の計画書、報告書などを見る機会が少ない。このため、ケアマネジャーが積極的に関係書類を共有していくことで、個々の事業者がどんな支援をしているかお互いに知る機会が増える。自身のサービスだけでなく、全体のケアプランの中で自分のセクションがどのように機能しているか、を知るきっかけにもなるだろう。
確かに、ICTツールをフル活用している現場はまだまだ多くないのが現実だ。目的は何よりも、ご利用者様に対する支援の質を高めること。この視点を絶対になくさないことが大前提となる。そのためにこそ、試行錯誤を繰り返しながらICTツールの活用を推進して業務負担の軽減、生産性の向上を図ることが重要だ。
また、テクノロジーはあくまでも仕事で使う様々な道具、手段の中の1つであり、決してケアマネジメントの全てではない。ICTツールを活用することでケアマネジメント、在宅介護の質を更に向上させていき、ご利用者様のQOLの向上につながるように取り組んでいきたい。