6月16日に「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太方針2023)」が閣議決定されました。【斉藤正行】
最大の焦点となった少子化対策の財源論は、結論が年末まで持ち越しとなりました。
とにもかくにも、この時期に来年4月の介護報酬の引き下げ(マイナス改定)が確定してしまうような最悪の事態だけは避けることができ、業界としてはほっと胸を撫でおろしたところです。このような表現が適切なほどに、一時は最悪の事態も予測される極めて厳しい情勢でした。
とはいえ、少子化対策の拡充に向けて歳出改革を徹底するという趣旨は明記されています。国の歳出の半分が社会保障費であることを鑑みると、最終的な改定率がどうなるのか、決して楽観視できる情勢でないことは明らかです。何もしなければ引き下げだって十分にあり得る、と言わざるを得ません。
介護報酬改定に関する「骨太方針2023」の具体的な文言を確認してみると、例えば、「歳出構造を平時に戻していくとともに、緊急時の財政支出を必要以上に長期化・恒常化させないよう取り組む」と記されています。
つまり、新型コロナ対策や物価高騰対策という理由だけをもって、恒常的な支出となる介護報酬のプラス評価は行わない、ということを意味しています。
更には、持続可能な社会保障制度の構築に向けて、「医療・介護などの不断の改革により、ワイズスペンディングを徹底し、保険料負担の上昇を抑制することが極めて重要」とも記されています。明確なマイナス改定を意味する記述こそありませんが、プラス改定が非常に難しいことを示していると言えるでしょう。
加えて、次のような文言も盛り込まれました。
「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、利用者が必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う」
介護事業者の今の厳しい経営状況を考慮する必要性を認める一方で、利用者負担や保険料負担の引き上げにつながるプラス改定への危惧を示す、まさに両論併記となっています。
今回、ひとまず、プラス改定・マイナス改定をめぐる攻防戦は、1つの大きな山場を超えました。「骨太方針2023」の決着に至るまでには、政府と与党との間で、業界団体も巻き込んだ強い綱引きが水面下で行われていました。
3.5兆円もの規模となった少子化対策の財源を増税なしで捻出することは、医療・介護の報酬改定に切り込まなければ至難の業と言えます。他方で、衆議院の解散・総選挙が近づいていると噂されている中で、与党の議員には医療・介護関係者を敵に回しかねない政策を何としても避けたい、という事情があります。
このような情勢の中で、最終的に結論を年末へ先送りにする玉虫色の決着となりました。
これから年末に向けて、介護業界は本当に大きな正念場を迎えます。3.5兆円の財源の確保に向けて、政府が歳出改革を進める方向性を示している以上は、もはや痛みゼロで乗切ることは不可能だと思います。
今後の制度改正の焦点、「利用者の2割負担の対象拡大」や「老健の多床室の室料負担」についても、年内に結論を出す方向性が示されました。こちらも厳しい議論が行われることは間違いありません。
介護報酬改定については、基本単位数を上げるのか下げるのかという議論だけでなく、各種加算のあり方も改めて総点検・整理されることになるでしょう。
介護現場の皆さんが感じている肌感覚以上に、次の報酬改定をめぐる情勢は大変シビアだというのが今のリアルです。今回の「骨太方針2023」では、マイナス改定が確定してしまう記載を避けられただけでも御の字、と考えるべきだと思います。
改定率の最終決着は、今年の秋から年末にかけてとなります。何としてもマイナス改定を避けるために、介護業界は一致団結して粘り強く交渉していかなければなりません。