【結城康博】現実味を帯びる介護の利用者負担原則2割 「少子化対策VS高齢者施策」という考えは誤りだ
今月7日、今年度の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」の原案が公表された。【結城康博】
政府は当初、介護保険の利用者負担について、2割の対象者を拡大するかどうかの判断を打ち出す予定だったが、結論は更に年末まで先送りされた。
これは必ずしもポジティブな話ではなく、状況は厳しいと言わざるを得ない。今回の原案を細かくみると、やはり懸念されるキーワードが盛り込まれている。財務省などが主張しているように、ゆくゆくは原則2割負担とされてしまうのではないか。
◆ 年収200万円まで下がる?
「骨太の方針」の原案では、例えば次の様に記載されている。
「介護保険料の上昇を抑えるため、利用者負担の一定以上所得の範囲の取り扱いなどについて検討を行い、年末までに結論を得る」
ここでは、「介護保険料の上昇抑制」と「利用者負担の一定以上所得の範囲の取り扱い」が関連付けられている点に注目したい。このような「霞が関文学」をみると、どっちつかずの曖昧な表現だと認識する読者も少なくないだろう。ただ私は、両者が結び付けて論じられていることに強い不安を抱かずにはいられない。
介護保険では現在、2割の利用者負担の対象者を年収280万円以上(単身の場合)などと定めている。結論は年末に先送りされたものの、近くこれが年収200万円以上まで引き下げられる(対象拡大)のではないか。後期高齢者医療制度は既にそうなっており、政府はカットラインをこれに合わせてくると予想する。
◆ 異次元の少子化対策が影響
今月13日、政府は児童手当の拡充などを盛り込んだ「こども未来戦略方針」を閣議決定した。年間でおよそ3.5兆円の予算を工面して、これから少子化対策を最優先に取り組んでいくようだ。
しかし、肝心の財源論は年末まで先送りされた。当然、多方面の歳出削減策が検討される。介護保険の利用者負担2割の対象拡大をめぐる議論にも、少なからぬ影響を及ぼすに違いない。
なぜなら、これは2つの効果が期待できるからだ。「高齢者の負担増による財源捻出」と、「負担増に伴う高齢者の“利用控え”による給付費抑制」。これは決して小さくないだろう。
◆ 原則2割負担は既定路線
児童手当などの拡充がこのまま実現すれば、その財源を長期的に確保していくことが不可欠となる。介護給付費の抑制策も、これまで以上に求められることだろう。
その意味で将来、介護保険の利用者負担は原則2割とされていくのではないか。さすがに低所得者は1割のままだろう。ただそれは例外的な位置付けで、基本は2割とされていく可能性があると考える。
そもそも私は、「少子化対策VS高齢者施策」というイメージが世間で構築されつつあると感じている。これは早計ではないか。親の介護のために仕事を辞める「介護離職」を防ぐ視点から、介護保険は経済政策、労働政策としても非常に重要だからだ。介護保険の充実をないがしろにすると、結局は子育て世帯に重い負担がのしかかることになる。
その意味で、少子化対策と高齢者施策は車の両輪だという「世論」を作っていかなければならない。しかし世間では、どうしても少子化対策だけに注目が集まってしまう。高齢者施策、介護施策が後回しとなっていることに、私は強い不安感を抱かずにはいられない。