【斉藤正行】次の介護報酬改定をめぐる攻防が激化 今後を左右する「骨太の方針」の議論が山場に
5月29日、財務省の審議会(財政制度等審議会)が政府の「骨太の方針」に向けた提言をまとめました。【斉藤正行】
毎年春に打ち出されるこの提言に、我々、介護事業者は戦々恐々としてきました。とりわけ今回は、次の報酬改定(医療・介護・障害福祉)を目前に控えたタイミングであり、その中身に注目が集まっていました。
この提言を皮切りに、次の報酬改定の改定率をめぐる議論(全体として上げるか下げるか)が活発になってきています。財政審の提言に対する論考とともに、全体の改定率の攻防について現時点での見通しをお伝え致します。
◆ 財政審の提言は「想定内」
まず、財政審より示された当面の社会保障改革に向けた提言の中身ですが、想定されていた範疇のものであり、正直な感想は「一安心した」というところです。
もちろん、財政再建に向けた報酬の削減案がいくつも示されていますので、厳しい内容であることは確かです。
しかしながら、今回の提言には目新しい中身がほとんどありません。いずれも既に議論が行われている内容ばかりであり、この提言によって新しい論争を呼び起こすような流れにはつながらないと思います。
示された提言の具体的な中身には、例えば、
◯ 利用者負担の2割の対象拡大
◯ 老健の多床室の室料負担の見直し
◯ ケアプラン作成の利用者負担の導入
◯ 生活援助サービスをはじめとする軽度者改革
◯ 経営の協働化・大規模化の推進
◯ 集合住宅での減算拡大とケアマネジメントの適正化
などがあります。いずれも賛同できる内容は少なく、これから反証していきたいとは思いますが、特に目新しい内容ではありません。
更にはなんと財務省から、
◯ 人材紹介会社への規制強化
◯ ICTの活用による生産性の向上
◯ アウトカム評価の更なる拡充
など、業界内で賛否は残るものの、介護事業者からの賛同が多い提言も複数示されています。
◆ 報酬引き下げも起こり得る
今回の提言が想定内にとどまった背景としては、やはり、昨今の物価高騰の影響などを踏まえた世論への配慮が大きいと思います。
ただし、その内容に目新しさは無いものの、大前提として「医療・介護の給付の効率化」はしっかり求めています。つまり、財務省はマイナス改定を提言していると言っていいでしょう。
現在、次の報酬改定の改定率をめぐる政府と与党の綱引きが活発になってきています。
既に一部報道では、少子化対策に充てる新たな財源のうち1兆円から2兆円程度を、その他の社会保障費の削減により捻出していくという政府案も明らかにされています。これはあくまで一案であり、決定では当然ありません。
一方で、与党・自民党内では社会保障費の削減に強く反対する声が多く上がっています。逆に大幅なプラス改定を求める要望がとりまとめられ、介護関係11団体とともに岸田首相への提言の提出も行われました。
いずれにせよ、次の報酬改定の改定率が決定されるのは秋から年末にかけての時期であり、現段階では、プラスになるかマイナスになるか予断を許さないと言わざるを得ません。
直近で最も注目すべきは、6月後半ごろの閣議決定が予定されている「骨太方針2023」です。骨太方針は財政審とは違います。政府全体の大きな方針を表すものであり、示された内容は確実に実行へと移されることになるでしょう。
万一、骨太方針に「少子化対策の財源確保に向けて社会保障費を適正化する」などと記述されれば、マイナス改定の可能性が極めて高くなります。
この骨太方針の中身は、現在、政府と与党でぎりぎりの調整が行われており、6月半ばには原案がまとめられる見通しです。改定率のみならず、介護職員の処遇改善や現場の生産性向上に向けた取り組みなど、その他の記述も含めて大いに注目していくべきです。今まさに、次の報酬改定に向けた議論は大きな山場を迎えようとしています。