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2022年8月24日

【新田恵利×結城康博】6年半の母親の介護で噛み締めた思い いま介護職に伝えたい感謝と尊敬の言葉

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《 新田恵利さん(右)と結城康博教授(左)》

「私にとっては神様みたいな存在。介護職の社会的な評価や給料が低いなんて腹立たしい」


こう語るのは新田恵利さん。1980年代に一世を風靡したアイドルグループ「おニャン子クラブ」の元メンバーだ。【Joint編集部】

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昨年、6年半に及ぶ介護を経て母親を自宅で看取った。自身の経験を赤裸々につづった著書「悔いなし介護(主婦の友社)」も出版。「親孝行ができる最後の機会となる。介護を通じて大きな充実感を得ることができた」。そんなポジティブなメッセージの発信を続けている。


いま、介護職にはどんな思いを抱いているのだろうか。淑徳大学・総合福祉学部の結城康博教授に詳しく聞いてもらった。新田さんが介護に直面した経緯から始まった2人の対談は、その苦労や喜び、現場の課題などへと展開していく。

■「まさに青天の霹靂。現実を受け入れられなかった」

《 新田さんと結城教授 》

結城:お母さんの介護は、どのような経緯で始まりましたか?


新田:直接的な原因は、持病の骨粗鬆症による腰椎の圧迫骨折で入院したことです。過去にも何度かあったのですが、それまでは退院すれば元の日常生活に戻れていました。でもあの時は、退院の日に自力で立ち上がることも歩くこともできない状態、ほとんど寝たきりの状態になっていたんです。


結城:どんな思いになりましたか?


新田:本当に突然のことで、まさに青天の霹靂でした。最初はやはり、現実をしっかり受け入れられなかったというのが正直なところです。「入院したんだから、もちろん治って帰ってくるんだろう」。勝手にそんな風に思って疑いませんでした。まさか歩けていた入院前より悪くなるなんて…。

《 新田さんとお母さん 》

結城:普通は良くなると思いますよね。


新田:かなりショックでした。私自身も無知でしたし、しっかり情報を集めていなかったことを悔やんだものです。


親はいつか自分より先に他界していく。そのことはずっと考えてきたんです。母と一緒に、延命治療の話や死装束の話などをしたこともありました。でも、介護の話は一切してこなかったんです。自分が介護をしなければいけない状況になることを、全く想定していませんでした。

■ 救いになった包括での一言

《 新田さんと結城教授 》

結城:その後はどうされたんですか?


新田:ちゃんとした介護ベッドもない状態で、どうすればいいか全く分かりませんでした。公的な介護サービスがあるということは知っていたので、とりあえず市役所へ行くことにしたんです。


結城:介護サービスをスムーズに受け始めることはできましたか?


新田:最初に接してくれた市の職員さんは、かなり事務的な態度でしたね笑。私にとっては一大事でしたが、よくある日々の業務という感じで…。1枚のB5の紙を差し出して、「ここへ電話して下さい」と。書かれていたのは地域包括支援センターの番号でした。


結城:包括を紹介してくれたんですね。


新田:はい。どんなところか当時はよく知りませんでしたが…。実はこの包括に救われることになったんです。


母の状態もうまく説明できず、ただただ焦りと不安にかられているだけの私に対し、職員さんがゆっくりと優しくかけてくれた言葉。「それは大変でしたね。でも大丈夫ですよ」。


この一言でスッと楽になりました。凍っていた心が溶けて、再び血が巡りだしたように感じました。今でもよく覚えています。当時はそれだけ追い詰められていたということでしょう。

《 新田さん 》

結城:職員さんが親切で良かったですね。実のところ、必ずしもそうでないケースもあるんです。多くの包括が丁寧に対応してくれますが、介護職の層の薄さというか、そうした現実があることも否定できません。結果として、良いサービスを受けられるかどうかはその人の運次第、となっているところが業界の課題なんです。


新田:他のケアラーの仲間からも色々な愚痴を聞きました笑。ただ私の場合、全てが完璧だったというわけではありませんが、多くの良い介護職の方に巡り会うことができました。そこは本当に良かったです。

■「訪問入浴に助けられた」

結城:実際に利用してみて、どんなサービスがありがたく感じましたか?

《 新田さんとお母さん 》

新田:そうですね。どれもありがたかったですが、母はデイサービスの入浴を特に気に入っていました。私が何か1つあげるとすれば、それは訪問入浴ですね。


自力で立てない、歩けない母を、私が自宅でお風呂に入れることは不可能です。入浴、着替え、ドライヤーと、職員さんがいつも汗をかきながら丁寧に行ってくれました。お風呂は衛生的に欠かせないですし、本人もとても喜ぶんです。職員さんには頭が下がる思いで、本当に感謝しています。


結城:訪問入浴は貴重なサービスですよね。ただ事業所が足りず、更に減ってきているという厳しい現実もあるんです。人材確保が難しかったり、採算が合わなかったりすることが要因で、コロナ禍も手痛い打撃となりました。需要に供給が追いつかず、サービスを必要とする高齢者が十分に使えない地域もあります。


新田:だとすると残念ですね…。私にとって訪問入浴は、母の生活を支えてくれる本当にありがたいサービスでした。

■「日頃から感謝を言葉にして伝えていく」

《 新田さん 》

結城:私は介護保険の動向を20年以上にわたって見てきましたが、事業者さんの経営環境はどんどん厳しくなっています。当然、そこで働く職員さんも大変さが増しているのが現実です。


新田:そうなんですね…。私はケアマネジャーさんの担当人数を初めて聞いた時、かなり大変だなと感じました。皆さん30人から40人を支援していると言うので、すごく驚いたんです。お仕事の内容を考えたら、10人、20人でもきついのではないでしょうか。学校の1クラス分って多いですよね。みんなケアマネさんを頼りにするわけですから、相当忙しいだろうなと心配になります。


結城:ケアマネも含め、現場の疲弊は非常に深刻な問題と言わざるを得ません。社会的な評価や給料が低いことも、疲弊の大きな要因と言えるでしょう。悲しいことですが、心無い態度で接してくる利用者が一部にいることも事実です。頑張って丁寧に仕事をしていても、十分に報われない面があることは否定できません。

《 結城教授 》

新田:やっぱりお給料の問題もありますよね?


結城:以前と比べると、少しは政府の助成金も増えて良くなりました。ただやはり、まだまだ不十分と言わざるを得ません。今は全国平均で、介護職員なら年収320万円から350万円くらいですが、夜勤がある職員も含めてこの水準です。家族を持ったり子どもを育てたりすることを望む人も多いわけですから、「給料が低い」という不満が出るのは当然のことでしょう。


新田:介護職のお給料が低い、社会的な評価が低いということはとても腹立たしく感じます。本当に大切な仕事をしてくれているのに…。なんでこの国はそうなんだろうって残念に思います。熱心な方が結婚を機に辞めていく、という話も聞きました。国にはすぐ改善して頂きたいです。


私たち利用者も意識を持っていきたいものです。介護職の皆さんをもっともっと大切にしていきましょう。日頃から感謝の気持ちを言葉にして伝えていきましょう。少なくとも私はそうしていきます。そんなムーブメントを作れたら素敵ですよね。

《 新田さん 》

■ 母親の「ありがとう」も介護職のおかげ

結城:介護職が少なくなると、みんなにとって大切なサービスが維持できなくなってしまいます。私が懸念しているのは、以前と比べて介護の問題に対する社会の関心、あるいはマスメディアの関心が低くなったのではないか、ということです。10年ほど前までは、何かある度に大きく取り上げられていたのですが…。今はそうした機会も少なくなりました。重要な問題が注目されないままで、介護職にとってはとても辛い状況だと感じます。


新田:私は母の希望に沿う形で、最終的に在宅で看取ることができました。母は最期、はっきりと言葉には出せなかったけれど、私と兄をみて確かに「ありがとう」と伝えてくれました。母にとっても、私たち残された家族にとっても、温かい幸せな最期だったと信じています。そうしたことも、介護職の皆さんなしでは実現しませんでした。

《 新田さん 》

結城:そうですよね。新田さんから改めて介護職へメッセージをお願いします。


新田:介護は大変な仕事ですよね。きれいなことばかりじゃないですし、一般の人なら嫌がる業務もきっと含まれるでしょう。


でも、社会にとって絶対になくてはならない仕事。そのことに早くから気付き、実際に仕事として向き合っている皆さんを心から尊敬しています。本当に凄すぎて、親を看取った私にとっては神様のような存在なんです。人に心の底から感謝される仕事であることは間違いありません。これからも無理のない範囲で頑張って頂きたいと、陰ながら応援しています。


実は私の兄も、母親の介護をきっかけに介護職に転職したんです。今はすごく楽しそうに働いていて、以前より充実した表情を見せるようになりました。先生からも何かメッセージをお願いします。

《 新田さんと結城教授 》

結城:現場で頑張っている介護職には、あまり思い詰めないようにして頂きたいですね。高邁な精神を持つのは素晴らしいことですが、それをずっと維持し続けるのも大変でしょう。あまり自分を追い込み過ぎたり、利用者の境遇にのめり込みすぎたりすると疲れてしまいます。もちろん、手を抜けと言っているのではありません。ただ時には、「普通のサービス業なんだ」という風に割り切っても大丈夫ですよ。


人間同士が向き合うわけですから、もちろん相性の問題だって出てくることでしょう。嫌な利用者に出会うこともありますよね。そんな時は1人で我慢することなく、すぐに周囲の人に相談してみて下さい。上司の方も是非、職場でそういう相談があれば聞き入れてあげて下さい。


他者のため、福祉のため、と力み過ぎることはありません。きめ細かいサービスは大切ですが、無理せず自分を守りながら仕事を続けていって欲しいと思います。そうすれば結果的に、より多くの人を支えていけるようになるのではないでしょうか。

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