◆ 社会保険の原理・原則は無視か
現在、岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」の財源について国会を中心に議論が活発化している。政府は6月にも方針を固める予定で、少子化対策の財源論は今まさに佳境に入りつつある。【結城康博】
その大きな候補の1つに、医療、介護、年金、雇用、労災といった社会保険料の引き上げが取り沙汰されている。実際、後期高齢者医療制度の保険料を引き上げることによって、出産育児一時金の増額分を賄うことは既に決定されている。
今後、更に膨大な財源を捻出するために社会保険料を引き上げることも、何らかの理由付けによって実施される可能性がある。正直、なりふり構わずの議論になっていると言わざるを得ない。
◆ 介護は2割負担層拡充が濃厚?
今の流れをみて私は、政府が以前から検討してきた介護保険の自己負担2割の対象者を拡大する案が、現実に実施される可能性が高まったと考えている。
政府が仮に介護保険料を引き上げたとして、それで得た財源を全く使途の異なる少子化対策に充当することはさすがにできまい。しかし、自己負担2割の対象者の拡大、具体的には単身高齢者で年収200万円以上まで範囲を広げれば、それによって一定の財源を確保できるほか、何よりも高齢者のサービスの利用控えが生じ、介護費の上昇を緩やかにすることができる。
そうなれば、介護保険料や公費の負担を軽減することができ、医療保険など他の社会保険料の引き上げも容易となる。介護保険の給付費抑制を確実にすることで、間接的に少子化対策の財源を工面しやすい環境を作り出せる、というわけだ。
◆ 小手先の少子化対策では?
しかし、こうした見直しで高齢者が介護サービスを利用しにくくなると、結果的に若い世代も追い詰めることになってしまう。自分の親を支える負担が増すため、子育て世代である高齢者の娘や息子にとっては大きなマイナスだ。既に「ヤングケアラー問題」として顕在化しているように、影響は孫の世代にまで及んでいくだろう。
介護サービスの充実を図れば家族介護者の負担が軽減される。このことは、少子化対策の観点でも間接的に有益となるはずだ。
そもそも、政府が検討している児童手当(注)の所得制限の見直し、給食費の無償化、出産費用の保険適用などが、本当に少子化対策に有効なのだろうか。私はこうした小手先の施策より、現役世代である娘や息子、もしくは中高生である孫が心配することのない、安心できる介護システムを作ることの方が重要だと考える。
注:この記事では配信当初、掲載時のJoint編集部の誤りで「児童手当」を「児童扶養手当」と記載しておりました。お詫びして訂正致します。この記事は訂正後の記事です。
結婚を考えている若い男女も、子育てと親の介護の両方を担う「ダブルケア」の問題を耳にすれば、独身でいることを選ぶ人が増えるだろう。その意味でも、高齢者費用を少子化対策へ単純に充当する施策は避けなければならない。
少子化対策に財源が必要なら、医療や介護などの社会保険料をあてにするのではなく、公費の見直しを徹底することが王道だ。そして国民や企業に対し、法人税、所得税、資産税、消費税などの増税によって未来のために新たな負担を求めたい、と説明するしかないのではないだろうか。