新年度は業界にとって重大な意味を持つ。次の2024年度の介護報酬改定をめぐる議論が行われ、その方針が決定されるからだ。少なくとも、乗り込んだ船の行く先が今よりはっきり見えてくるのは間違いない。【Joint編集部】
論点は多岐にわたるが、期待されることの1つにケアマネジャーの処遇改善がある。地域の介護ニーズがますます拡大していく今後、このキープレイヤーの活躍を後押しする環境の整備は大きな課題だ。ただし、直近の「経営概況調査」で利益率が初めてプラスに転じたという前提条件の変化もあり、話がどちらの方向へ進むかは予断を許さない。
今後の議論をどのように進めていきたいか、日本介護支援専門員協会の柴口里則会長に伺った。
−− 次期報酬改定に向けて何を訴えていきたいですか?
まずは居宅介護支援の基本報酬の引き上げ、介護支援専門員の処遇改善を強く主張していきます。やはりそれが最も重要なポイントです。
−− 居宅介護支援の利益率がプラスに転じましたが、基本報酬の引き上げなどの必要性は変わりませんか?
当然です。確かに利益率はプラスとなりましたが、介護支援専門員の処遇が十分とは到底言えないのが現実です。介護職員の処遇が少しずつ改善されてきているので、その差も以前よりだいぶ小さくなりました。
私は以前から繰り返し、介護支援専門員の平均年収を500万円まで引き上げるべきだと主張してきました。別に大それたことを言っているつもりはありません。
現状は、全産業の平均(*)を大きく下回る水準にとどまっていますよね。これでしっかりと人並みの生活をしていけますか? 家族を養い、子どもを大学へ行かせてあげられますか? 厳しいですよね。そうした状況を放置しておいて、「ケアマネジメントの質を高めろ」と言うのも矛盾があるでしょう。
* 厚生労働省の産業構造基本統計調査=2021年で約456万円
もちろん、質を高めることが極めて重要なことは言うまでもありません。我々も個々の介護支援専門員の支援に注力しています。ただ、継続的に勉強・研修に励む余裕をなかなか持てない人がいるのもまた事実ではないでしょうか。
−− 前回の報酬改定では逓減制が緩和されました。現状の評価と今後への期待をお願いします。
逓減制の緩和には様々な意見があります。現行のルールでは、事業所がそれぞれ選択できるようになっているところも良い点ではないでしょうか。
ここからは個人としての意見で、協会の中で合意形成された方針では全くないのですが…。私は逓減制をいつか廃止してもいいのではないかと思っています。
ケアマネジメントの質を維持しながらひと月に持てるケースは何件か? それは個々の介護支援専門員の能力や働き方によっても異なるのではないでしょうか。25件がちょうどよい人、50件でもしっかりとこなせる人、どちらも存在すると思いますし、受け持つ利用者さんの状態によっても異なることがあるでしょう。
例えば、クリニックのお医者さんもひと月の人数の上限が決まっているわけではありません。そうした自由な環境の中で、人気があっていつも患者さんが並んでいるところもありますし、必ずしもそうではないところもあるでしょう。介護支援専門員も基本的にこれと同じでよいと思います。
今後も協会の内外で真摯な議論を重ねていきます。そして、個々の介護支援専門員にとってより活躍しやすい制度の構築につなげていきたいと思います。
−− 居宅介護支援の加算でいうと、課題として取り扱うべき重要なテーマは何でしょうか?
それは色々ありますが…。1つあげるとすると、医療機関との連携を後押しする加算の見直しでしょうか。
例えば前回の報酬改定で新設された「通院時情報連携加算」。現行の要件では、利用者さんが医療機関で医師の診察を受ける際に同席すると算定できる決まりとなっていますが、在宅の訪問診療に立ち会う際は対象となりません。これは見直すべきではないでしょうか。
訪問診療であっても、本人が自力で対応できないケースなどは介護支援専門員が必要な情報の伝達・共有をしています。どんなに忙しくても、親族らがいなければ我々が無償で対応するケースが多々あるのです。国にはこうした仕事もしっかりと評価して頂きたい。
−− 介護報酬改定に向けて、全国のケアマネに呼びかけたいことはありますか?
自分たちの未来は自分たちで切り開くしかない、ということですね。我々は団結して動かないといけません。そうして集約した意見を中央に届けることが、最も効果があると信じて活動しています。
他の誰かが動いてくれるだろう…。多くの人がそう思っていることこそ、介護業界の声が国にしっかりと届かない大きな要因です。次期報酬改定を良い方向へ持っていくために、みんなで結束して行動していきましょう。どうか力を貸して下さい。