通所介護の経営環境が大変厳しい状況になっていることが、各種のデータで明らかにされています。その要因分析と、次の2024年度の介護報酬改定を見越した通所介護の展望、事業者が取り組むべきことを論考したいと思います。【斉藤正行】
今月1日に公表された「経営概況調査」によると、通所介護の昨年度の利益率は1.0%。前年度から2.8ポイント低下していました。全サービスの平均(*)と比較すると、収支が顕著に悪化していることが分かります。
* 全サービスの平均利益率は前年度比マイナス0.9ポイントの3.0%
更には、福祉医療機構(WAM)が先月に公表した調査レポートでも昨年度、通所介護の46.5%が赤字だと報告されました。
これらのデータは、事業所が物価高騰の影響を本格的に受ける前の状況を表すものです。物価高騰の影響が加味される今後の調査では、更なる収支悪化が予測されます。
このようにデイサービスの経営状況が厳しくなっているのは何故でしょうか。
収入面では、コロナ禍の利用控えによる利用率低下が主たる要因の1つだと思います。一方の支出面では、人手不足による人件費の高騰、採用費や労務管理費などの増加に加えて、コロナ対策の経費の増加、そして物価高騰による電気代、水道光熱費、ガソリン代、食材費、その他全般の経費が増加していることが要因だと考えます。
◆「飽和状態」は一部地域のみ
これらに加えて、WAMが公表した調査レポートでは、通所介護の事業所数が既に飽和状態にあるのかもしれない、と指摘されています。これによる利用者の獲得競争の激化から多くの事業所で利用率が下がっている、という見立てです。
しかしながら、私は飽和状態という表現には違和感を覚えます。
当然ながら、地域ごとに状況は大きく異なっているため、なかには飽和状態と呼ぶべきところもあるでしょう。ただし、全国で総じて飽和状態にあり、これから通所介護を増やしていく必要はもはやない、とは全く思いません。
大前提として、2025年以降も急速に後期高齢者が増加し、約20年間、要介護の高齢者は増加し続けることになりますので、通所介護の事業所も増やし続ける必要があることは自明です。また、確かに地域によっては飽和状態とも言うべき競争激化の環境もあると思いますが、他産業の状態と比べれば通所介護の競争環境はまだまだ緩やかではないでしょうか。
◆ 事業者の優勝劣敗、より鮮明に
もっとも、介護保険制度がスタートした20年前や10年前と比べれば、通所介護の競争が激しくなったことは確かです。
そのような中で、当時と状況が決定的に異なることが1つあります。
それは、今後も通所介護の事業所数を増やし続ける必要性はあるものの、これまで以上に勝ち組と負け組がはっきり分かれていくこととなり、プレイヤーとなる運営法人の数は統廃合されていく、ということです。
そこで勝ち組となるために必要なことは何か。事業者が危機感を持って認識しなければならないことがあると思います。
それは、次期報酬改定で中核となる考え方、具体的には「科学的介護の推進」「自立支援・重度化防止の推進」「DX推進・生産性向上」などの対応に、本腰を入れて取り組んでいくことです。
例えば「科学的介護の推進」であれば、LIFEの取り組みが欠かせません。現在、「科学的介護推進体制加算」は月40単位であり、膨大な手間を考えると必ずしも採算が合うものではないため、とりあえずデータ入力を行って加算を算定しているだけ、という事業所も多いと思います。しかしながら、次期改定では間違いなく点数も拡充され、関連加算も大幅に増加していくことが予測されます。
更には、前回改定の「入浴介助加算」のような見直しの考え方が多くとられていく可能性もあります。従来通りの対応を続ければ単位数は削減され、逆に、自立支援・重度化防止にしっかり取り組むこと、その成果をあげることがより高く評価されていく − 。そうした形に多くの加算が移行していくことも予測されます。
こうした新しい概念に対して、加算算定のための表面的な取り組みしか行っていない事業者は、やがて対応しきれなくなるでしょう。そうなれば、収入が大きく減少する可能性も出てきます。
ケアの提供体制を本質的に変化させていく事業者のみが存続・発展し続けることのできる時代へと、これから大きく転換されていくのではないかと思います。