【結城康博】某宗教団体の問題が介護保険の見直しにも影響 軽度者の給付カットなど厳しい改正が見送りに
世の中本当に何が起きるか分からないものだ。今回は改めてそう感じた。【結城康博】
◆ 一寸先は闇
厚生労働省は19日の審議会で、2024年度に控える次の介護保険制度改正の内容を示す報告書をまとめた。
今回の制度改正では、要介護1と2の訪問介護、通所介護を保険給付から外し、市町村の「総合事業」へ移管させるか否かが大きな焦点となっていた。結果、2024年度は見送られることが決まり、とりあえず安堵している。
今夏の参院選の与党勝利によって、岸田政権は強い政権基盤を構築できたかに見えた。「黄金の3年間」を手にしたとも言われ、私は最低でも、要介護1と2の訪問介護の「生活援助」は給付から外されると覚悟していた。
しかし、あれから間もなく某宗教団体の問題に関する報道が繰り広げられるようになり、内閣支持率は徐々に下がった。さらに、物価高による厳しい経済情勢も重なって事態は一変した。この4〜5ヵ月でここまで政局が変わるとは、誰が予想できただろうか?
一刻も早く被害者の救済が進むことを、私も心から祈っている。
ただ結果的に、某宗教団体の問題が介護保険制度改正の行方に多大な影響を与えたことは間違いない。政府は世論の風当たりが極めて強くなるなか、更なる批判を招きやすい不人気策を強行することができなくなった。
もちろん、必死の抵抗を続けた関係者の努力も忘れてはならない。在宅介護を後退させる愚策を阻止した関係者には、私からも敬意を表したい。ただやはり、内閣支持率の低迷も背景要因として非常に大きかった。
◆ 政権基盤の弱体化という“神風”
今回の制度改正の議論では、利用者負担の引き上げなど“持続可能性の確保”をめぐる重要案件も年内の取りまとめに至らず、来年にかけて継続して協議していくこととされた。これは極めて異例の事態だ。背景要因の1つとして、やはり今の岸田政権の苦しさがあることは否めない。
特に、来年にかけて自己負担2割の対象者を拡大するか否かが大きな注目点となる。私は現時点で、おそらく拡大されると予測している。岸田政権は何としても実施したいと考えており、だからこそ結論を来年以降に先送りしたのだ。ただし、このまま内閣支持率の低迷が続いていけば、この改革案も阻止できる可能性はゼロではないように思える。
◆ 一時の時間稼ぎでしかない
今回、ケアプランの有料化も含めて重要改革は軒並み先送りにされたが、これで安心かというとそうではない。厚労省は今回の報告書に、「2027年度までに結論を出す」との方針を明記している。
2027年度に向けた議論では、今回のような内閣支持率の低迷という“神風”は吹かないだろう。負担増や給付カットが見送られたのは、あくまでも一時の「時間稼ぎ」でしかない。
中長期的に考えれば、団塊の世代が全て85歳を超える2035年頃には、今より厳しい介護保険制度となっている可能性が高い。引き続き利用者やその家族、そして介護事業者は、シビアな制度改正論議が続いていくことを認識しておく必要がある。