ケアマネジャーの法定研修のカリキュラムが改められる。厚生労働省が今年4月に通知で現時点の具体案を公表した。
カリキュラムはどう変わるのか? 今回は、これまでの国の議論に関与してきた日本介護支援専門員協会・能本守康常任理事の解説の後編だ。話題は見直しのポイントから、ケアマネのマインドセットのあり方などにつながっていく。【鈴木啓純】
−− となると研修を受けるケアマネさんは、これまで以上に大変になりそうですね。ただでさえ忙しいのに…。
必ずしもそうではないんです。研修全体の時間をいたずらに長くすべきではない、ということは1つの共通認識でした。私も繰り返し要請しましたし、専門家の先生や厚労省の方もそう捉えていたんです。
結果、トータル時間数は大きく変わらないことになりました。時間数が増える科目がある一方で、削除、減少、統合となる科目もあります。
−− 過度な負担増を避ける形になったということでしょうか?
法定研修の時間数は、前回の大幅な再編・見直しでも増やされた経緯があります。もちろん、それは大きな意義のあることです。
ただ、私も講師を務めておりますが、日頃から忙しい受講者・指導者にとって大変さが増したことも事実と言わざるを得ません。介護支援専門員に求められること、期待されることが増えている中で、いかにトータル時間数を延ばさずにより良い研修としていくか − 。これは非常に難しい問題で、厚労省も含め関係者がみな苦心したところです。
−− 実務研修の見直しのポイントを教えて下さい。
大枠の考え方は既にお伝えした通りですが、カリキュラムの内容としては、
○「人格の尊重、権利擁護、介護支援専門員の倫理」の時間数増
○「地域包括ケアシステムの深化、地域の社会資源」の時間数増
などがあげられます。
* 厚労省がまとめた見直しのポイントはこちらから
1つ強調しておきたいのは、ケアマネジメントプロセスに関する研修の時間数が少し減ったことです。これは先程の話で、トータル時間数を延ばさないという制約の中でのやむを得ない判断でした。他に加えるべき要素が増えた結果であり、決して重要性が低下したわけではありません。引き続き極めて大切な内容です。
実務研修は新人さん向けのプログラムですから、まず基礎的な知識をしっかりと身に付けて頂くことが重要です。限られた時間内で必要なことを確実に学べるよう、引き続き関係者、指導者に工夫や努力が求められるところではないでしょうか。
−− 主任研修の見直しのポイントを教えて下さい。
大きな変更は、「終末期ケア(エンドオブライフケア)を含めた生活の継続を支える基本的なマネジメント、疾患別マネジメントの理解」の新設です。現行の「ターミナルケア」という科目はここに統合されることとなりました。
* 厚労省がまとめた見直しのポイントはこちらから
主任研修はリーダーとしての素養を育む場でもあります。人材育成や業務管理などについてしっかりと学んで頂くことも非常に大切です。私は検討会の中で、そうした部分に十分な厚みをもたせる運用にすべきと提案させて頂きました。
−− ケアマネはどんな心構えを持って法定研修に臨めばいいですか?
法定研修の捉え方でぜひ理解して頂きたいのは、”これが全てではない”ということです。5年に1度しかない機会ですから、これだけ受ければ十分というものでは決してありません。
最も大切なのは、法定研修を受講するまでに各々が現場でどんな学び、経験を重ねてきたのか、ということです。それまでの自分の5年間を改めて振り返り、次のステップへ進む成長の機会にして頂きたいと思います。
同業の仲間が集まる場でもありますから、他の介護支援専門員と自分を比較することもできるでしょう。得意なところ、苦手なところ、できているところ、足りていないところなどが確認できるはずです。
もちろん、法定研修には新しい知識を得るという意義もあります。ただもっと大切なのは、そこで自分を見つめ直してレベルアップにつなげることではないでしょうか。
−−「法定研修は同じことの繰り返し」という不満の声もあります。
まだまだ改善の余地はありますよね。全てを否定するわけではありませんが、意識の問題も大きいのではないでしょうか。
たとえカリキュラムが同じであっても、学ぶ状況、姿勢が異なれば得られるものも大きく違ってきます。直近5年間の仕事を振り返りながら受講すれば、法定研修は必ず有益な学びの機会となるでしょう。
−− 現場のケアマネへメッセージをお願いします。
確かに研修は大変です。負担に感じることもあろうかと思います。ただ、楽な仕事なんてどこにも存在しません。
私たちは既に、日本の超高齢社会を支える中心的な存在になっています。その期待に応え、社会的な評価を更に高めていくためには、仕事の質を自ら上げていく努力を続けなければいけません。
今は法定研修のオンライン化も進み、以前より受けやすくなった面も出てきました。我々も内容の充実、環境の改善、負担の軽減に向けた取り組みを更に展開していきます。皆さんと同様に意識を高く持ち、知識・技術を高めていく努力を共にしていきたいと思います。
−− ありがとうございました。