【山口宰】激化する人材獲得競争 勝敗のカギを握る「従業員満足度」の高め方
昨年、介護保険制度創設以降初めて介護職員数が減少に転じました。人手不足を原因とする倒産も増加するなど、日本の介護の先行きが危ぶまれる状況となっています。
しかし、現状をよく分析していくと、人が集まり定着している現場と、人材が流出し慢性的な人手不足に悩まされている現場が存在します。そこで今回は、人材が集まる介護現場づくりに欠かせない「従業員満足度」を向上させるアプローチについて考えてみたいと思います。
◆ 人が集まる事業所、集まらない事業所
「介護業界が人手不足である」ことに疑いを挟む余地はありません。しかし、介護事業の運営者のみなさんとお話をしていると、興味深い事実に気づかされます。
それは、順調に人材を確保し、うまく育成し、定着させることによって、人材が潤沢に確保できている事業所と、採用に苦労し、既存の人員の流出が続き、慢性的な人手不足に苦しんでいる事業所があるということです。介護保険という同じシステムのもとで事業を行っているにもかかわらず、なぜこのような違いが生じるのでしょうか。
「人が集まる事業所」に共通する要素を分析していくと、ひとつの重要なカギが浮かび上がります。それは、「従業員満足度」(ES:Employee Satisfaction)です。
◆ 従業員満足度とは
従業員満足度とは、企業や組織で働く従業員が、その職場環境や仕事に対してどれだけ満足しているかを示す指標です。具体的には、日々の業務や待遇、働く環境、人間関係、キャリア成長の機会などに対する満足度を測るもので、組織の健康状態を知る上で重要な指標とされています。
従業員満足度が高まれば、よりよいサービスの提供が行われるようになり、業績の向上につながります。また、従業員満足度の高い企業が、人材の確保や離職率の低下に成功している傾向が高いというデータも出ています。
◆ 従業員満足度を高める5つのポイント
それでは、介護の現場で従業員満足度を高めるためには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。5つのポイントに整理してお伝えします。
① 理念やビジョンへの共感を高める
この組織が何を目指しているのか、私たちは何のために働いているのか。これらを明確にすることは、従業員満足度を高めるうえで重要なポイントです。
理念やビジョンは額に入れて飾っておくだけでは意味がありません。現場での日々の業務と結びつけて理解することができるように、ユニットやチームの会議の場でも積極的に取り上げていきましょう。また、組織のトップやリーダーが、理念やビジョンについて、その思いを語り続けるということも効果的です。
② スキルアップとキャリア形成を支援する
「仕事を通じて成長している」という実感を持つことは、従業員満足度の向上に大切な要素です。いまの組織に属していることが成長につながるのであれば、それは仕事を継続するためのモチベーションになります。
また、キャリアパスを明確にしたり、キャリアに関する相談の場を設けたりすることで、将来の目標に向けた道筋を描くことができるようになります。内部・外部の研修を用意したり、資格取得の支援をしたりすることも重要です。
③ 働きやすい職場環境を整える
介護現場では、多くのスタッフが業務負担が大きいと感じています。そのため、安心して働くことができる職場環境を整えることが重要です。
具体的には、ライフスタイルや家庭の状況に合わせた柔軟なシフトを導入する、現場の声を反映した業務改善を行う、最新の介護機器を導入して身体的負担を軽減する、などの取り組みがあげられます。また、ストレスチェックや相談窓口の設置など、メンタルヘルスへのアプローチも効果的です。
④ コミュニケーションの促進と人間関係へのアプローチ
以前にも指摘したように、人間関係は離職理由のトップを占めており、良好な人間関係を保つことは、従業員満足度を高めるために不可欠な要素です。日々の業務での連携や意思疎通がスムーズに進むよう、定期的なチームミーティングを設けたり、スタッフ同士が気軽に話し合える場を作ったりすることが効果的です。
また、感謝や努力を認め合う文化を醸成することで、メンバー間の信頼関係が深まります。さらに、1on1を実施するなど、上司と部下の双方向のコミュニケーションを大切にし、フィードバックを通じてスタッフの成長をサポートする姿勢を示すことも重要です。
⑤ チャレンジできる環境づくり
人が仕事の中で成長していくためには、新しいことへのチャレンジを続けることが大切です。日々同じ業務を繰り返すだけでなく、スタッフが新しいアイディアをもとにチャレンジし、成功体験を積み重ねることができれば、仕事への意欲は高まり、自己成長につながります。
たとえば、利用者の夢を叶えるプロジェクトを行ったり、部署の枠を超えたチームでテクノロジーの導入に取り組んだりすることは、スタッフの学びになるだけではなく、利用者の満足度向上や、事業所の生産性向上といったメリットももたらすことになります。
◆ 人が集まる事業所を目指して
介護現場で人材が不足すると、一人ひとりのスタッフの負担が増え、従業員の不満が高まり、人間関係が円滑にいかなくなります。その結果、退職するスタッフが出たり、人材を確保することが困難になったりし、ケアやサービスの質が低下するという負のスパイラルに陥りがちです。
従業員満足度が高い職場を作ることができれば、自然と人材は集まり、定着させていくことが可能になることでしょう。また、利用者の満足度が高まれば、より多くの方に利用いただけるようになり、業績の改善につながります。
持続可能な介護サービスを提供するために、従業員満足度を高め、魅力ある介護現場づくりを行っていきましょう。