【足立圭司】介護テクノロジーの課題は「導入」から「活用・定着」に 成果を得るために必要なこと
介護現場では、生産性向上や職員の負担軽減、介護サービスの質の向上を目的として、ICTや介護ロボットなどのテクノロジーが徐々に導入されてきています。【足立圭司】
◆ 進んできたテクノロジーの導入
デジタル庁は、データに基づくオープンな政策の立案・実施を目指し、関連するデータを「政策ダッシュボード」として公開しています。
その中にあるのが、「介護現場の生産性向上に関するダッシュボード」。ここに様々な指標がまとめられています。
介護現場に直接影響を与える指標としては、ICT・介護ロボットの導入事業者の割合があげられます。この割合は、「介護サービス情報公表システム」において、「タブレット端末やインカムなどのICTの活用」や「見守り機器、介護ロボット、センサーなどによる業務量の軽減」が記載されている事業者の割合を指しています。
ICT機器や介護ロボットなどのテクノロジーを導入している事業者の数は、各種補助金の効果もあり、年々増加しています。特に施設系サービスでは、介護記録ソフト、インカム、見守り支援機器が今年度から新設された「生産性向上推進体制加算」の要件の1つとなっており、既に導入している、または導入を検討している事業所が多いと考えられます。
◆ 導入と「活用」「定着」の違い
ただし、このように介護現場にテクノロジーの「導入」が進んでいる一方で、必ずしも十分な効果が得られていない事業所もあります。現場の課題を十分に分析せず、職員の意見などを考慮しないまま、経営層が場当たり的に「とりあえず導入」した結果、ロボットがうまく活用されず「お蔵入り」になったり、テクノロジーへの抵抗感が生まれたりするケースが、皆様の周りでもあるのではないでしょうか。
このように、テクノロジーを「導入」しても期待していた効果が得られない場合、それはテクノロジーの「活用」や「定着」につながっていない状態と考えられます。「導入」とは、介護現場にロボットを初めて配置し、使い始める段階を指す一方、「活用」「定着」とは、導入したロボットを日々の業務に組み込み、継続的かつ効果的に使い続けることを意味しています。
◆「活用」「定着」につながらないのはなぜか
「活用」「定着」へつながらない原因としては、以下のようなものが考えられます。
① 現場の課題に即したテクノロジーが導入されていない
現場の課題に即していないテクノロジーが導入されると、既存の課題が解決されないまま残り、活用・定着の障害となります。
② テクノロジーの選定に現場の意見が反映されていない
現場の意見が反映されていないテクノロジーの導入は、職員が機器を活用するモチベーションを上げにくくします。
③ 現場の実状に即していない
導入するテクノロジーによって、必要となるスキルやリテラシーのレベルは大きく異なります。例えば移乗支援機器では、利用者に対して安全に操作するための習熟が求められます。一方で、スマートフォンの操作感覚を活かして直感的に扱えるインカムなどは、比較的容易に活用できると考えられます。
◆「活用」「定着」に必要な取り組み
「活用」「定着」へつなげるためには、現場の「課題の見える化」を行うことや、職員・専門職も関与したプロジェクトチームを組成することが有効です。 プロジェクトチームの中では、テクノロジー導入に向けた計画の作成や準備を行い、導入後も様々な試行錯誤を重ねながら必要な対策を検討していくなど、PDCAサイクルを回すことが求められます。
より具体的な手順を詳しく知りたい方は、事業所が取り組みを進めるうえで参考にできるよう、厚生労働省が作成・公表している「介護ロボットのパッケージ導入モデル」や「生産性向上ガイドライン」を活用してみてはいかがでしょうか。また、各都道府県が設置する「生産性向上総合相談センター」に相談することもお勧めします。