新たな価値と仕事を作り出せ! 転換期に考える新時代のケアマネ像
来年は2025年。介護関係者がこれまで折に触れて節目だと語ってきた年が、もう目前に迫っている。【Joint編集部】
我々は今、未来を語らなければならない − 。そんな機運が高まるのは当然だ。介護保険制度や介護業界の展望をめぐる議論が、これまで以上に賑やかになってきている。
その切り口は多様だが、多くの関心が集まって熱を帯びているテーマがある。「ケアマネジャーのあり方」。厚生労働省の検討会が人材不足を念頭に改革案を提示するなど、介護保険制度の要は今まさに大きな転換期を迎えている。
そこで、株式会社ケアモンスターの田中大悟代表取締役にインタビューを実施した。田中氏は現在、「Chatwork(チャットワーク)」の開発元の株式会社kubellが展開する「Project ハタフレ」に賛同し、精力的に活動を展開中。介護業界の誰もが安心してDXへの一歩を踏み出せる環境を作る、という目標を掲げて介護現場の啓発・支援などを行っている。
じっくり聞きたかったのは制度論ではない。ケアマネジャーや医療ソーシャルワーカーの専門性を有しつつ、介護保険の世界だけにとどまることなく活躍の幅を広げている田中氏に会って、この質問をぶつけたかった。
「これからの時代のケアマネジャー像をどう描いていますか?」
田中大悟|ケアマネジャー、医療ソーシャルワーカー。株式会社ケアモンスター代表取締役。介護保険制度の誕生とその後の変遷を熟知する専門家として、日本全国でセミナー・講演などを多数開催。介護事業のコンサルティングや執筆活動も行っている。「Project ハタフレ」では認定アドバイザーを担い、介護現場のDXの推進を後押ししている。
◆ 介護保険には頼れない
−− ケアマネジャー不足が全国的に顕在化しています。どうしてこうなったのでしょうか?
もちろん要因は複合的ですが、私はやはり給与水準の問題が大きいと捉えています。
年収は全産業の平均を下回っており、場合によっては介護職員よりも低くなっています。もちろんやりがいはありますが、それはどの職種も同じ。この職種に憧れ、魅力を感じてくれる人が、特に若い人を中心に減っているのではないでしょうか。
−− 介護報酬の引き上げが必要ですか?
それはもちろん重要ですが…。国の財政や現役世代の負担を考えると、なかなか難しいと言わざるを得ません。
最近では物価高騰で生活コストが上がったり、各業界でこれまでにない賃上げが実現したりしています。労働者が給与水準や労働環境をシビアに見る傾向が強まっているなか、人材を多く集められる状況を介護報酬だけで作り出せるかというと、どうも厳しいのではないでしょうか。今のジリ貧の流れを変えられず、状況が更に悪化していく結果につながることが心配です。
◆ まずはキホンのキから
−− ではもう手詰まりということでしょうか?
私たちがそれぞれ、自分達の力で道を切り開くしかないと思っています。
年齢とともに給与水準が上がっていく仕組みをいかに作るか。若者に夢があると思わせる環境をいかに作るか。これは今、介護業界に関わる我々自身が取り組むべきことではないでしょうか。
もちろん簡単なことではありません。少なくとも私は、そうした意識を持って動くことを大切にしています。
−− 具体的にどんな取り組みに力を入れればいいのでしょうか?
まずは介護保険制度のもとでしっかりと事業を運営すること。介護報酬は確かに高くないですが、居宅介護支援はポイントをおさえれば黒字となる水準に設定されています。隙のない経営で利益をしっかり出している事業者が少なからずいることも、紛れもない事実なんです。
国が促す各種加算の算定やICTのフル活用なんて当たり前。職場環境の改善や業務負担の軽減、必要な人材の確保など、その先の成果をしっかり出していくことが最低条件となります。
◆ “儲け主義”と言うけれど…
−− 事業の多角化も推奨していると聞きました。
特にこれからは、ケアマネジャーによる保険外サービスの可能性が拡がるでしょう。我々はご利用者・ご家族のニーズを最もよく知っており、良いサービスを提供できる大きなポテンシャルを有しています。
例えばご家族が遠方にお住まいの場合。帰省の交通費や移動時間などを考慮すれば、見守りや生活支援、外出支援などの保険外サービスでウィンウィンの関係を築くことも、大いに考えられるでしょう。
もちろん、国のルールやガイドライン、職業倫理を遵守した展開が大前提ですが、その中で認められることなら全然やっていい。料金が高いか安いかは、実際にサービスを利用するお客様がそれぞれ判断することです。
−− そうした姿勢を“儲け主義”と嫌う関係者もいます。
どう考えるかは自由です。もちろん、利益を出すのは自分たちのためという側面も否定しません。
ただそれよりも、これから業界をもっと盛り上げていくために、サービスを持続可能なものとしていくために、それぞれが利益を出す方策を模索することが重要ではないでしょうか。
そうでなければ、ケアマネジャーの給与水準を全産業の平均に近づけることはできません。魅力ある職種として若者を引き付けることもできません。
人材不足や経営難で事業所が傾けば、軽度の方や困難事例などにきめ細かく対応する余力も失われます。十分なリソースさえあれば、皆さんが胸の中に描いている理想のサービスを実践できるんです。我々はケアマネジメントの発展のために、自らの職責をこれからも全うしていくために、もう少し経営視点を身に付けるべきではないでしょうか。
もちろん、全ての人にご賛同頂けるとは思っていません。やりたくない人はやらなくていいと思います。ただ、そうした思いを持って前へ進もうとしている人を揶揄したり、押さえ付けたりすることはやめて頂きたい。
◆ もっとクリエイティブに
−− 介護保険の世界の外にもご活躍の幅を広げているようですね。
ソーシャルアクションには力を入れています。これまでに出会った方々、同じ方向を向いている方々と一緒に、あまり制限を設けずにできることを積極的にしてきて、それをつなげてきました。日々のケアマネジャーの業務をしているだけでは、なかなか解決できない課題も出てきますので…。
例えば一般企業の方々、ICT機器の開発元の方々とも仕事をしているのですが、ケアマネジャーの専門性って多くのシーンで役立てられるんです。収入を増やす道も見つかりますし、こちらが学ぶことも沢山あるので刺激的です。
日々の業務を通じて専門性を積み重ね、それを介護保険の外の世界でもうまく活用していく − 。
そんな選択肢もあっていいでしょう。地域での活動が広く社会を変える力になる、という前向きな話だと捉えています。ケアマネジャーの魅力を高め、若者に夢を持ってもらえるようになる活動だと信じ、これからも汗をかいていきます。
−− 仕事の範囲を敢えて広く捉えることで、やりがいや楽しさが更に増すということでしょうか?
そうかもしれません。そもそも介護って、すごくクリエイティブな性質を持っていますよね。
ご利用者の「これから」を共に作り上げる仕事で、そこに一律の正解はありません。人生の数だけ答えがあり、ご本人の主観や感情にも寄り添った創造力が常に求められます。データに基づく介入ももちろん重要ですが、サイエンスよりアートに近い領域と言えるのではないでしょうか。
これまでの仕事で最も心が震えたのは、あるご利用者が亡くなる直前に「お前でよかった」と言ってくれた時でした。そういう瞬間を多く作りたい。そのために必要だと感じることを、個々のケアマネジャーがそれぞれ、自分の方法で研鑽を積みながら取り組んでいくことが大切だと思います。
◆ 情報の収集力より編集力を
−− これからの時代のケアマネジャー像をどう描いていますか?
そうですね…。答えはないのかもしれません。それを皆が模索していく時代に入った、ということではないでしょうか。
これからは、従来のようなある種の画一的なケアマネジャー像が薄れていき、目指す姿が人によって大きく異なってくると考えています。
私が大切だと思うのは、仕事を受けること、選ぶことに加えて、「創る」ことも重要になっていくという視点です。AIなどの進化が大きな影響を与えることも間違いありません。情報を収集する力より、編集してうまくアウトプットする力が物を言うようになります。
そうして新たな価値や仕事を自ら創り出せる人間が、これからの時代のケアマネジャー像をそれぞれ確立していくでしょう。そんな風に皆で切磋琢磨することが、業界を盛り上げ、職種の魅力を高め、若者を呼び寄せることにつながります。結果的に、利用者への良質なサービス提供に結びつくのではないでしょうか。
このままいくと、介護保険は本当に崩壊へ向かっていくかもしれません。皆で殻を破り、自分たちの価値をもっともっと作って語ればいいし、そうすべき時が来ていると思います。